小林秀雄『地獄の季節』の誤訳・篠沢秀夫『フランス文学精読ゼミ』の批判

地獄の季節 (岩波文庫)作者:ランボオ,小林 秀雄岩波書店Amazon はじめに タイトルを見て「小林秀雄訳『地獄の季節』の誤訳」ではないのかと思われるかもしれませんが、実は Rimbaud(一般的には「ランボー」ですが小林訳では「ランボオ」)の Une saison en …

両辺の実部と虚部を「それぞれ」……:結城浩『数学文章作法 推敲編』

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)作者:結城浩筑摩書房Amazon 中一のときに上下巻のどちらも読んで参考になったのですが、最近また見返したくなったので読み直してみると、推敲編の pp. 63–64 に次のような記述がありました。 「それぞれ」は対応関係を…

読書録:朝比奈誼『フランス語和訳の技法』

フランス語 和訳の技法作者:朝比奈 誼白水社Amazon まあ当たり前の話ではあるものの、英文解釈の訓練を充分に積んでいれば、仏文解釈の本は基本的に「英仏間の違いを意識する」という作業だけになるのであって、具体的なテクニックについては「もうすでに聞…

ローゼンバーグ『科学哲学』がゲーデルの不完全性定理を理解していない件について

科学哲学―なぜ科学が哲学の問題になるのか (現代哲学への招待 Basics)作者:アレックス ローゼンバーグ春秋社Amazon 巷では「科学哲学の学部教育のスタンダードと言っても差し支えない本」と(出典は不明だが自分の備忘録にそうメモ)されているローゼンバー…

医学の要旨

ドイツ語は(今ちょうど近くに Hamburger Ausgabe を借りれそうな場所がないので)Project Gutenberg を、日本語訳は青空文庫の森鷗外訳を底本にし、訳注として高橋義孝『ファウスト集注 ゲーテ『ファウスト』第一部・第二部注解』と新潮文庫をメモしておい…

グロタンディーク「出版差止めの意向表明」

本文 出版差止めの意向表明 アレクサンドル・グロタンディークより 私が著したどんな作品も文章も、そしてその翻訳すべても、紙媒体であれ電子媒体であれどんな形式であれ、全文であれ抜粋であれ、科学的であったり私的であったりする文章からのものであれ、…

π=3

all-for-nothing.com 上の記事に書き忘れたこととして、『収穫と蒔いた種と』の第二部に「円積問題」という良い話が載っていることがありました。辻氏の訳には少し不明瞭な部分があるので、これも拙訳ですが紹介しておきます。 no 69(四月二十七日)十一、…

ビジュアル音声学 練習問題 解答例

ビジュアル音声学作者:川原 繁人三省堂Amazon 川原繁人. (2018). ビジュアル音声学. 三省堂. の練習問題に非公式の解答例を付けました。ただし、本文中の内容を読者が自ら再確認することそのものが求められている問題はすべて省略したので、逆に言うと以下で…

俺ら京都さ行くだ #1

前書き zeta-aniki.hatenablog.com に触発されたので、去年の秋に id:modif_q さんを訪ねて京都に旅行した際の思い出を書き記しておこうと思う。 経緯 ミルの言う「精神の危機」が当時の私たちに降り注がれていた。id:modif_q さん、Q-rad.heart、あるいは彼…

読書録:大塚淳『統計学を哲学する』

統計学を哲学する作者:大塚 淳名古屋大学出版会Amazon 非常に良い読書体験だった。ここ最近で読んだ本の中ではかなり面白い部類に入ったのはもちろん、かなり勉強になった部類にも入った。ただ、いくつかのメモをしておこう……と思ったのだが、読了後に色々と…

ヤスパース『精神病理学総論』が全巻オンラインで読めるようになる

all-for-nothing.com やランダウ・リフシッツに引き続き、古典的な名著がまたもや読めるようになるようです。 www.ndl.go.jp 上巻: https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2424097 中巻: https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2425175 下巻: https://dl.ndl.g…

負のエントロピー

生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)作者:シュレーディンガー,岡 小天,鎮目 恭夫岩波書店Amazon なかなか面白かったのですが,今だったら『細胞の物理生物学』とかを読んでもよい気はします.ここでメモしておきたいのは「負のエントロピー」という…

ポリア「ある種の格子多角形の個数について」

訳者序 私がまだ高校一年生だったとき, 当時は中学生を担当していた私の恩師が, 道の数え上げに $q$ 二項係数が現れることを解説する課外授業を行うという告知を掲示板に貼っていたのを最近ふと思い出した. 老獪になった頭で久しぶりに色々考えて調べてみる…

感覚の文法

<私>のメタフィジックス作者:永井 均勁草書房Amazon 『〈私〉のメタフィジックス』は永井均のデビュー作であり、近年の主著である『世界の独在論的存在構造 哲学探究2』とはかなり雰囲気が異なっていて何だか可笑しい感じだった。ところで、最初に全然本筋…

holomorphic/meromorphic についての覚書

tetobourbaki.hatenablog.com id:tetobourbaki 氏のこの記事における主張を要約して注釈をつけておきます。 holomorphic はギリシア語の holos「全体」と morphe「形」からなる造語である。高木貞治『解析概論』によると、「正則関数」は holomorphic functi…