鏡像法(1980年 東大物理 第2問)

平板導体に電荷を近づけると, その付近の導体表面に反対符号の電荷が誘導されて, 導体と電荷の間に静電気力が働く. この力 $\overrightarrow{F}$ を求めるため, 以下の設問の順にしたがって調べてみよう.
まず, 距離 $2a$ だけ離れた 2 点 Q, Q' にそれぞれ正負の点電荷 $q$, $-q$ がある場合を考える.

a. QQ' の中点を P とし, P から QQ' に垂直に $r$ だけ離れた点 R における電界の強さ $\overrightarrow{E}$ (大きさ, 方向と向き) を求めよ.

Coulomb の法則と重ね合わせの原理により $\overrightarrow{E}$ の方向と向きは f:id:all_for_nothing:20201121095119p:plain のようになり, その大きさは $$\begin{aligned} E&=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q}{(\sqrt{a^2+r^2})^2}\cos(\cdot)\times2\\ &=\boxed{\frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{2a}{(a^2+r^2)^{3/2}}} \end{aligned}$$ となる.

b. Q, Q' を含む平面における電界の様子を, 電気力線を用いて図示せよ. ただし, 電気力線の本数にこだわる必要はないが, その密度, 方向と向きについては注意して描くこと.
c. P を含み QQ' に垂直な平面 S は等電位面になっている. その理由を述べよ.

等電位面においては, その曲面に沿って電荷を動かしても電場が仕事をしないので, 等電位面と電場は直交せざるを得ない (あるいは電場が $0$ だが, 設定より今は $0$ でない). また, 電気力線は定義より各点で電場と平行であるから, f:id:all_for_nothing:20201121105606p:plain のようになる.

次に平面 S の位置に, $a$ に比べて十分大きいひろがりをもつ十分薄い導体円板を置く. ただし, この導体は帯電しておらず, また円板の中心が P に一致するように置くものとする.

d. このとき電界の様子は変わらない. この理由を述べよ.

導体を電場内に挿入すると, 導体内の自由電子が電場から力を受けて運動エネルギーを得る一方で, 静止している陽イオンに衝突し続けることで熱や光としてエネルギーが散逸され続け, 最終的には導体内の電場が $0$ となる平衡状態に達するような電荷分布が定まる. したがって導体は内部も表面も等電位面を形成しており, 半径が無限大とみなせる極限においてその電位は無限遠を基準として $0$ である. 平面 S は導体を挿入する前から電位が $0$ で一定であったから, 平衡状態に達した後の境界条件は挿入前と同じになり, Poisson 方程式の解の一意性から必ず空間内の電位分布が一意に確定し, その勾配を取ることで電場分布も一意に確定し挿入前後で不変である.

さらに Q' にあった点電荷 $-q$ をとり去る.

e. このとき電界の様子はどうなるかを述べよ.

境界条件は変化していないので, Q' 側の空間の電場は $0$ になり, Q 側の空間の電場は不変である.

f. Q における点電荷 $q$ に働く力 $\overrightarrow{F}$ を求めよ.

Q 側の電場は不変なので, 導体が存在せず Q' に $-q$ があったときと同じ状況である. したがって $+q$ に働く力の向きは導体に垂直で引き込まれる向きであり, その大きさは Coulomb の法則より $\boxed{F=\dfrac{1}{4\pi\varepsilon_0}\dfrac{q^2}{4a^2}}$ である.