望遠鏡和による (等差)×(等比) 型数列の和の導出

数列 $\lbrace (ak+b)r ^ k\rbrace$ (ただし $r\neq1$ とする) の和 $$S _ n=\sum _ {k=1} ^ n(ak+b)r ^ k$$ を求めることをよく考える機会があります. 一般的には「公比を掛けて差を取る」という方法が紹介されていますが, これは添字の管理が非常に (特に高校数学は 1-based なので) ややこしく, むしろ望遠鏡和と呼ばれる手法*1を用いるのが計算ミスも少なく済みます.

今もし

$$(ak+b)r ^ k=F(k+1)-F(k)$$

なる関数 $F(k)$*2 が見つかれば

$$S _ n=F(n+1)-F(1)$$

が成り立ち, 非常にスムーズかつ安全に計算を実行できます. というわけで早速どうやって見つけようか考えてみると, 一意性だとかを考える必要はなく「とにかく見つけたもん勝ち」の世界であるので $F(k)=(\alpha k+\beta)r ^ k$ という形だと考えてみましょう.

$$\begin{aligned} (ak+b)r ^ k &=F(k+1)-F(k)\\ &=(\alpha(k+1)+\beta)r ^ {k+1}-(\alpha k+\beta)r ^ k\\ &=(\alpha(r-1)k+(\alpha r+\beta(r-1)))r ^ k \end{aligned}$$

比較して

$$\begin{cases} a=\alpha(r-1)\\ b=\alpha r+\beta(r-1) \end{cases}$$

であり, 計算すると

$$\begin{cases} \alpha=\dfrac{a}{r-1}\\ \beta=\dfrac{-ar+b(r-1)}{(r-1) ^ 2} \end{cases}$$

を得ます. したがって

$$F(k)=\frac{1}{r-1}\left(ak+b-\frac{r}{r-1}a\right)r ^ k$$

となったので実質的に $S _ n$ は求められたことになります. 一般形は無駄に複雑に見えるので実際の数値を代入して考えてみるのがよいでしょう.

実際に $\alpha$ と $\beta$ を見つけたら最初の恒等式に必ず代入してみて実際に成り立っていることを確認してください. この検算は非常に簡単でありながら同時に計算ミスを防ぐ本質的なステップです.
改題1. (2003年 センターIA 追試 3-(2)) 正の整数 $a$ を初項とし, $1$ より大きい整数 $r$ を公比とする等比数列 $\{a_n\}$ が $a_4=54$ を満たすとき, $$S_6=\sum_{k=1}^6 ka_k=\boxed{ヌネノハ}$$ である.
改題2. (2009年 センターIIB 本試 3-(2)) $\{a_n\}$ を初項 $a_1$ が $1$ で公比で $\dfrac{1}{3}$ の等比数列とする. 数列 $\{a_n\}$ の偶数番目の項を取り出して, 数列 $\{b_n\}$ を $b_n=a_{2n}$ で定める. 数列 $\{c_n\}$ を $c_n=2n\cdot b_n$ で定め, $U_n=\displaystyle\sum_{k=1}^n c_k$ とおく. $$U_n=\frac{\boxed{タチ}}{\boxed{ツテ}}-\frac{\boxed{トナ}n+\boxed{ニヌ}}{\boxed{ツテ}}\cdot\frac{1}{\boxed{\ ネ\ }^n}$$ となる.
改題3. (2017年 センターIIB 本試 3-(3)) 数列 $\{t_n\}$ の一般項は $t_n=(n+1)\cdot 4^{n+1}$ である. $\{t_n\}$の初項から第 $n$ 項までの和 $U_n$ は, $$U_n=\frac{\boxed{\ ソ\ }n+\boxed{\ タ\ }}{\boxed{\ チ\ }}\cdot4^{n+\boxed{ツ}}-\frac{\boxed{テト}}{\boxed{\ ナ\ }}$$ であることがわかる.

改題1の答えは $4010$, 改題2は $\dfrac{27}{32}-\dfrac{24n+27}{32}\cdot\dfrac{1}{9 ^ n}$, 改題3は $\dfrac{3n+2}{9}\cdot4 ^ {n+2}-\dfrac{32}{9}$ です.

*1:この用語は望遠鏡和 - INTEGERSに準拠したものであり, 受験数学では「和の中抜け」とガラパゴス的に呼ばれています. 何やらテクニカルすぎるものを想定してしまうかもしれませんが, この計算自体は呼吸のように用いるテクニックであり, 今までそれに統一的な名前が付けられ普及していなかったというだけに過ぎません.

*2:このような $F(k)$ の背後にある理論については数列の和/差の体系的理解 ~離散量の微分積分学~ - 666 feet underが詳しいです.