高速道路のカーブの設計(東大後期 総合科目II 1996-2)

少し前に曲率の説明をする機会があり,その際に次の問題を紹介しました.書いておかないとどうせ忘れるので,メモしておきます.

高速道路のカーブの設計を考える.この際,自動車の運転者にとって運転しやすい自然なカーブ形状が望ましい.そこで,自動車の運転者は,速さ一定で走行しつつハンドルを一定角速度で回転させるものとして設計を行う.

$x\text{\textendash}y$ 平面上で $x$ 軸の正の方向に速さ $v$ で走行していた自動車が,時刻 $t=0$ においてハンドルを一定角速度で回転させるものとする.ハンドルの回転角速度を $\omega$ とすれば,ハンドルをきり始めて $t$ 秒後のハンドルの回転角 $\varphi$ は $\varphi=\omega t$ であり,タイヤの転向角 $\psi$ は $\psi=k\varphi=k\omega t$ である.ここで,$k$ は定数であり,$v$ は常に一定である.また,自動車の大きさは無視できるものとして,次の問いに答えよ.

(1) 時刻 $t$ における自動車の進行方向と $x$ 軸とのなす角 $\tau$ を求めよ.ただし,$t\geqq0$ とする.

(2) 自動車の進行方向と $x$ 軸とのなす角 $\tau$ と,時刻 $t=0$ からの自動車の走行距離 $L$ との関係式を求めよ.

(3) 曲率半径 $R$ と走行距離 $L$ の積は,カーブ上のあらゆる点において常に一定となることを示せ.なお,曲率半径とは曲線の曲がり具合を接触円の半径として表現したもので,次式で定義される. $$R=\dfrac{\biggl\lbrace1+\biggl(\dfrac{dy}{dx}\biggr) ^ 2\biggr\rbrace ^ {\frac{3}{2}}}{\dfrac{d ^ 2y}{dx ^ 2}} =\dfrac{\biggl\lbrace\biggl(\dfrac{dx}{dt}\biggr) ^ 2+\biggl(\dfrac{dy}{dt}\biggr) ^ 2\biggr\rbrace ^ {\frac{3}{2}}}{\dfrac{dx}{dt}\dfrac{d ^ 2y}{dt ^ 2}-\dfrac{d ^ 2x}{dt ^ 2}\dfrac{dy}{dt}}$$

時刻 $t=t_1$ まで回転角速度 $\omega$ でハンドルを切り,時刻 $t=t_1$ からは回転角速度 $-\omega$ でハンドルをきったところ,時刻 $t=2\times t_1$ において自動車の進行方向は $y$ 軸方向となった.

(4) 時刻 $t_1$ における曲率半径 $R_1$ を求めよ.

(5) 実際には,カーブ走行中の遠心力に起因する不快感や危険性を緩和するために,道路面に傾き角をもたせるように設計がなされる.このとき,道路面の傾き角 $\theta$ の設定は,重力と遠心力との合力が道路面に垂直になるように行われ,傾き角 $\theta$ に対する $\tan\theta$ は片こう配と呼ばれる.時刻 $t_1$ の地点における片こう配 $\tan\theta$ を求めよ.重力加速度を $g$ とする.

インターネット上で見つかる解説は8-2 高速道路の設計(クロソイド曲線)しかありませんが,まず問題文にいくつかの誤植が見られることはさておき,素直に考えると解答はどれも物理量としての次元がおかしくなっています.たとえば,$\tau(t)=\dfrac{k\omega t ^ 2}{2}$ の左辺は $[\text{rad}]$ ですが右辺は $[\text{rad}\cdot\text{s}]$ になっています.そもそも,問題文には具体的なモデルが書かれていないので,たとえば $\Delta\tau$ と $\psi\Delta t$ の関係性が不明瞭になっており,線形だとしても比例定数が与えられていません.

そこで,旺文社の解答例では次のようなモデルが考えられています.すなわち,時刻 $t$ における自動車の進行方向と $x$ 軸とのなす角 $\tau$ は,自動車がちょうど自らの全長 $l$ を走り切ったときにタイヤの転向角 $\psi$ だけ変化しているという仮定をおきます.このとき,$$\dfrac{d\tau}{dt}=\lim_{\Delta t\to0}\dfrac{\Delta\tau}{\Delta t}=\dfrac{\psi}{l/v}=\dfrac{k\omega}{T}t$$ となります(ただし $T=l/v$ とおいた).

(1) は $\tau=\dfrac{k\omega}{2T}t ^ 2$,(2) は $\tau=\dfrac{k\omega}{2Tv ^ 2}L ^ 2$,(3) は $RL=\dfrac{Tv ^ 2}{k\omega}=(\text{一定})$ となります.

(4) は $$\begin{aligned}\tau\rvert _ {t=2t_1}&=\int_0^{t_1}\dfrac{k\omega}{T}tdt+\int_{t_1}^{2t_1}\dfrac{k(-\omega)}{T}tdt\\ &=-\dfrac{k\omega}{T}t_1 ^ 2\end{aligned}$$ が $y$ 軸方向,すなわち $\pm\dfrac{\pi}{2}$ に等しくなったという条件が与えられているので,$k\omega$ の符号に応じて $t_1=\sqrt{\dfrac{\pi T}{2|k\omega|}}$ となり,したがって $R_1=\sqrt{\dfrac{2Tv ^ 2}{\pi|k\omega|}}$ となります.(5) も同様に $\tan\theta=\dfrac{v}{g}\sqrt{\dfrac{\pi|k\omega|}{2T}}$ となります.旺文社の解答例でもなぜか (4) (5) は $y$ 軸方向が正の方向として解かれていますが,普通はそのような限定を付けずに解釈するはずなので,このように絶対値付きで解答すべきだと思います.