Tohoku — 第 2 章 アーベル圏におけるホモロジー代数

2.1. $\partial$ 関手と $\partial^*$ 関手

$\mathbf{C}$ をアーベル圏, $\mathbf{C}'$ を加法圏, $a$ と $b$ を $a + 1 < b$ を満たす ($+\infty$ または $-\infty$ になりうる) 整数とする. 次数 $a < i < b$ の $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}'$ への $\partial$ 共変関手とは, $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}'$ への加法的関手の系 $T = (T ^ i)$ ($a < i < b$) に加えて, すべての $a < i < b-1$ と $\mathbf{C}$ 内の完全系列 $0 \to A' \to A \to A'' \to 0$ について射 (境界準同型 または 連結準同型)

$$\partial \colon T ^ i (A'') \to T ^ {i + 1} (A')$$

を与えるものであり, 次の公理を満たすもののことをいう:

(i) もう一つの完全系列 $0 \to B' \to B \to B'' \to 0$ と, ひとつめの完全系列からふたつめのものへの準同型があったとき, 次の図式

$$\begin{CD} T ^ i(A ^ {\prime\prime}) @>\partial>> T ^ {i+1}(A ^ {\prime}) \\ @VVV @VVV \\ T ^ i(B ^ {\prime\prime}) @>\partial>> T ^ {i+1}(B ^ {\prime}) \end{CD}$$

が可換となる.

(ii) すべての完全系列 $0 \to A' \to A \to A'' \to 0$ について, 付随する次の系列

$$\text{(2.1.1)}\quad.\ldots\to T ^ i(A') \to T ^ i(A) \to T ^ i(A'') \to T ^ {i + 1}(A') \to \ldots.$$

は複体となる. すなわち, 連続する二つの射の合成は零となる.

共変 $\partial ^ *$ 関手についても類似の定義があり, ただひとつの差異は $\partial ^ *$ 作用素は次数を代わりにひとつ減らすところにある. 反変 $\partial$ 関手と $\partial ^ *$ 関手についても類似の定義があり, $T ^ i$ は反変関手であり, 境界作用素として $T ^ i(A') \to T ^ {i + 1}(A'')$ または $T ^ i(A') \to T ^ {i - 1}(A'')$ なる射があてられる. $T ^ i$ の次数 $i$ についてこの符号を変えるか, または $\mathbf{C}'$ をその双対と取り替えることにより $\partial$ 関手は $\partial ^ *$ 関手となる. したがって共変 $\partial$ 関手についての探求に集中することができる. $a = - \infty$ かつ $b = + \infty$ のとき, $\partial$ 関手は [6, Chap. III] にみられる関手の連結系列と同じものである.

ふたつの $\partial$ 関手 $T$ と $T'$ が同じ次数の範囲で与えられているとき, 射 $T \to T'$ とは, 自然変換の系 $f = (f_i)$ であって $\partial$ との可換性を持つもののことをいう: すべての完全系列 $0 \to A' \to A \to A'' \to 0$ について, 図式

$$\begin{CD} T ^ i(A ^ {\prime\prime}) @>\partial>> T ^ {i+1}(A ^ {\prime}) \\ @VVV @VVV \\ T ^ {\prime i}(A ^ {\prime\prime}) @>\partial>> T ^ {\prime i+1}(A ^ {\prime}) \end{CD}$$

が可換になることをいう. $\partial$ 関手の射について, その加法と合成は明らかな方法で定まる.

$\mathbf{C}'$ が Abel 圏であるとき, $\partial$ 関手が完全であるとは, 任意の $\mathbf{C}$ の完全系列 $0 \to A' \to A \to A'' \to 0$ について, 付随する系列 (2.1.1) が完全となることをいう. コホモロジー関手 (resp. ホモロジー関手) とは, 全次数について定義された完全 $\partial$ 関手 (resp. 完全 $\partial^*$ 関手) のことをいう.

2.2. 普遍 $\partial$ 関手

$T = (T ^ i)$ を $a > 0$ について $0 \leq i \leq a$ の次数で定められた $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への共変 $\partial$ 関手とする. $T$ が普遍 $\partial$ 関手であるとは, 任意のおなじ次数について定められた $\partial$ 関手 $T ^ {\prime} = (T ^ {\prime i})$ と任意の自然変換 $f ^ 0 \colon T ^ 0 \to T ^ {\prime 0}$ について, 次数 $0$ において $f ^ 0$ と一致するような拡張 $f \colon T \to T'$ が一意に存在することをいう. 反変 $\partial$ 関手についてもおなじ定義を用いる. $\partial ^ *$ 関手については, $T \to T ^ {\prime}$ なる射の代わりに $T ^ {\prime} \to T$ なる射を用いる.

定義より, $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への共変関手 $F$ と整数 $a > 0$ が与えられたとき, 存在するとすれば, 次数 $0$ において $F$ と一致するような次数 $0 \leq i \leq a$ において定義された普遍 $\partial$ 関手が同型を除いて高々一意に定まることがわかる. このときの成分を $S ^ iF$ と表記し, $F$ の右衛星関手とよぶ*1. $i \leq 0$ の場合には, $S _ iF = S ^ {-i}F$ と定める. ただし, $S _ iF$ は $F$ の左衛星関手であり, これは次数 $0 \leq i \leq a$ の普遍 $\partial ^ *$ 関手を考えることで得られる. 与えられた $i$ に対して, $S ^ iF$ が存在するなら, それは $a$ の取り方に依存しないことが容易に示される.

私の知る限りの具体的なケースにおいては, 加法関手 $F$ についてその衛星関手は存在する. $\mathbf{C}$, $\mathbf{C} ^ {\prime}$ が与えられたとき, すべての $F \colon \mathbf{C} \to \mathbf{C} ^ {\prime}$ なる加法関手について, 全次数にわたる普遍 $\partial$ 関手であって $0$ 次に $F$ を持つものの存在を示すためには, $S ^ 1F$ と $S ^ {-1}F$ の存在を示せばよい; これは $i > 0$ について $S ^ 1(S ^ iF)) = S ^ {i + 1}F$ でありそして $i \leq 0$ について $S ^ {-1}(S ^ iF) = S ^ {i - 1}F$ であるという等式による.さらには, $S ^ 1F$ と $S ^ {-1}F$ の探求については双対的な問題である; $\mathbf{C}$ と $\mathbf{C} ^ {\prime}$ とを双対圏に取り替えればよい.

加法関手 $F\colon \mathbf{C} \to \mathbf{C} ^ {\prime}$ が消去的であるとは, すべての $A \in \mathbf{C}$ に対してモノ射 $u \colon A \to M$ であって $F(u) = 0$ であるものを取れることをいう; $\mathbf{C}$ について, すべての $A \in \mathbf{C}$ が入射的消去 (cf. 注意 1.10.1) を備えるならば, これは任意の入射的消去 $u$ について $F(u) = 0$ であることと同値である; $\mathbf{C}$ について, すべての $A \in \mathbf{C}$ が入射的対象 (cf. 1.10.1) $M$ へのモノ射を持つならば, これは $F(M) = 0$ であることと同値である. 双対的に, $F$ が余消去的であるとは, すべての $A \in \mathbf{C}$ に対してエピ射 $u \colon P \to A$ であって $F(u) = 0$ なるものが存在することをいう.

命題 2.2.1. $\mathbf{C}$ と $\mathbf{C} ^ {\prime}$ をアーベル圏とし, $a > 0$ について $T = (T_i)$ を次数 $0 < i < a$ についての $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への完全 $\partial$ 関手とする. $T ^ i$ が $i > 0$ について消去的であるならば, $T$ は普遍 $\partial$ 関手であり, $\mathbf{C}$ について任意の $A \in \mathbf{C}$ が入射的消去 (cf. 1.10) を持つならば逆の主張も成り立つ.

単刀直入にいえば, $(T' _ 0, T' _ 1)$ が次数 $0$ と $1$ について定義された $\partial$-関手であり, $f ^ 0$ は $T _ 0 \to T' _ 0$ なる自然変換であるとき, $f ^ 1 \colon T ^ 1 \to {T ^ \prime} ^ 1$ なる射であって $(f ^ 0, f ^ 1) \colon (T ^ 0, T ^ 1 ) \to ({T ^ \prime} ^ 0, {T ^ \prime} ^ 1)$ が $\partial$-関手の自然変換となるようなものがただひとつ存在することを示せばよい. $A$ を $\mathbf{C}$ の対象とする. このとき完全系列 $0 \to A \to M \to A' \to 0$ であって $T ^ 1(A) \to T ^ 1(M)$ が零となるものが考えられる. もしも $f ^ 1$ が構成できたとするなら, 次の図式

$$\begin{CD} T ^ 0(M)@>>> T ^ 0(A ^ {\prime}) @>>> T ^ 1(A) @>>> T ^ 1(M)\\ @VVV @VVV @VVV\\ {T ^ \prime} ^ 0 (M) @>>> {T ^ \prime} ^ 0 (A ^ \prime)@>>> {T ^ \prime} ^ 1 (A). \end{CD}$$

は可換となる. 第一行は完全列であるため, $T ^ 0(A') \to T ^ 1(A)$ は全射となる. 従って射 $f ^ 1(A) \colon T ^ 1(A) \to {T ^ \prime} ^ 1(A)$ は $f ^ 0(A') \colon T ^ 0(A') \to {T ^ \prime} ^ 0(A')$ から始まる ${T ^ \prime} ^ 0(A')$ の商への経路によって完全に決定される. これは $f ^ 1(A)$ の唯一性を導く. さらに先程の図式から $f ^ 1(A)$ を取り除いたものを考えると, 第二行のふたつの射の合成は零となるため, 図式を可換にするような $T ^ 1(A) \to {T ^ \prime} ^ 1(A)$ なる射をただひとつとることができる. 標準的な議論によりこの射が完全列 $0 \to A \to M \to A' \to 0$ の選び方によらないことが示され, さらにはこの射が関手的であり, “$\partial$ と可換である” ことが示される. これは命題の前半部分を示す. 後半部分については次の存在定理から示される:

定理 2.2.2. $\mathbf{C}$ をアーベル圏であってすべての対象 $A \in \mathbf{C}$ が入射的消去を持つとする. このとき任意の $\mathbf{C}$ 上の共変加法関手 $F$ は $i \geq 0$ について衛星関手 $S ^ iF$ を持ち, これらは消去的である. 普遍 $\partial$-関手 $(S ^ iF) _ {i \geq 0}$ が完全であるためには, $F$ が次の条件をみたすことが必要かつ十分である: $F$ は半完全であり, さらにすべての $P \subseteq Q \subseteq R$ なる $\mathbf{C}$ の対象について, $F(Q/P)\to F(R/P)$ の核は $F(Q) \to F(Q/P)$ の像に含まれる (この条件は $F$ が左完全か右完全であるならばいつでもみたされる).*2

証明は本質的に [6, Chap. III] に負う. 前半部分については, $S ^ 1F$ の存在をいえばよい. $A\to M$ が入射的消去であるような $0 \to A \to M \to A' \to 0$ なる完全系列をとる. このとき $S ^ 1(A) = F(A')/\mathrm{Im}(F(M))$ とすればよい. [6] にあるように, 式の右辺が完全列の選び方によらないことが理解され, さらに $A$ について関手的であることがわかる. 境界作用素の定義, 2.1 の公理 (1) と (2) の証明, そして得られた $\partial$-関手 $(F, S ^ 1F)$ が普遍的であることも標準的な議論により示される. 同様に完全性の条件についての証明も省略する. ここで, 双対的な主張についても指摘をしておく. もし $\mathbf{C}$ についてすべての対象が射影的消去を持つとき, $i \leq 0$ についての衛星関手は存在し, 余消去的となる; $\partial$-関手 $(S ^ iF) _ {i \leq 0}$ の完全性についての条件は定理 2.2.2 と同様である. 従って $\mathbf{C}$ のすべての対象が入射的消去と射影的消去の両方を持つならば, 任意の共変加法関手 $F$ について衛星関手 $S ^ iF$ がすべての $i$ について存在し; さらに $S ^ iF$ が完全であるためには, $F$ が定理 2.2.2 に与えられた条件を満たすことが必要かつ十分である. $F$ が反変関手ならば, 上記の主張について, 必要なら正次数と負次数を交換し, 完全性の条件について双対をとればよい.

注意. 定理 2.2.2 の状況とは大きく異なる, $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}'$ への任意の加法関手が衛星関手を持つ場合について指摘しておこう. $\mathbf{C} _ 0 \subseteq \mathbf{C}$ なる集合であって任意の $A \in \mathbf{C}$ が $\mathbf{C} _ 0$ の対象と同型であるようなものが存在するとし, さらに $\mathbf{C}'$ がアーベル圏であって無限直和が存在するとする. このとき任意の $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}'$ への加法関手 $F$ は $i \geq 0$ についての衛星関手を持つ. さらに, $\mathbf{C}'$ が公理 AB 5) (cf. 1.5) を満たし, $F$ が定理 2.2.2 の最後の条件をみたすならば, $\partial$-関手 $(S ^ iF) _ {i \geq 0}$ は完全となる. 従って, 特に, アーベル群のなす圏は AB 5) をみたすので, 先程の結果をアーベル群に値を持つ関手 $\mathrm{Hom}(A,B)$ に適用することで, $\mathrm{Hom}(A, B)$ の衛星関手 $\mathrm{Ext} ^ i(A, B)$ が得られ, これは $B$ について共変であり, $A$ について反変であると考えることができる (しかしふたつの方法で得た衛星関手が同じ関手を与えることについては示される必要がある). 上記の $\mathbf{C}$ についての条件は, 対象に何らかの有限性条件が課されているものについても成り立つことがある (特に, 無限直和の存在は一般に保証されない). 例: 標数 $0$ の固定された体 $K$ 上の (連結でないことを許す) 代数群であって, 代数多様体として完備であり群としてアーベル群であるもののなすアーベル圏, すなわち $K$ 上のアーベル代数群であって $0$ での連結成分がアーベル多様体であるようなもののなす圏を考える (体は標数 $0$ でなければならない; さもなくば同型でない全単射が存在してしまう). 上で述べた結果を証明するには $S ^ i (F)$ を次のように構成するということだけを示そう: $\mathbf{C}$ における “すべての” モノ射 $A\to M$ に対する対象 $F(M/A)/\operatorname{Im}(F(M))$ の帰納極限であり, これは $A \to M$ 上の恒等射を誘導する射 $M\to M ^ {\prime}$ が見つかることを $A\to M$ が $A\to M ^ {\prime}$ に “優越する” ということにより前順序付けられる.

2.3. 導来関手

$\mathbf{C}$ と $\mathbf{C} ^ {\prime}$ を二つの Abel 圏とする. $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への加法的関手 $F$ の導来関手の理論は [6, Chap. V] にあるように発展しているが, それは場合に応じて次のことを仮定せねばならないということを除けばの話である: すべての対象 $A \in \mathbf{C}$ が入射的対象の部分対象か射影的対象の商対象か, または両方に同型である. したがって, 共変関手の導来関手や反変関手の導来関手を定義するためには, すべての対象 $A \in \mathbf{C}$ が入射的対象の部分対象と同型であることを仮定する必要があり, これによりすべての $A \in \mathbf{C}$ がある入射的分解*3 $0 \to A \to C ^ 0 \to C ^ 1 \to \cdots\cdot$ と確かに同型であることと, ($C ^ i$ の複体を $C$ で表すと) $R ^ i F (A) = H ^ i (F(C))$ の定義が導かれる. 共変関手の左導来関手や反変関手の右導来関手を定義したければ, 同様にすべての対象 $A \in \mathbf{C}$ が射影的対象の商と同型であることを仮定する必要がある. そして最後に, 多変数の混合関手の導来関手を定義するためには, それぞれの変数の圏に適切な仮定を課す必要がある. このことを除いて, [6] の解説はそのまま移植できる. 特に, $F$ がたとえば共変であって, 右導来関手 $R ^ i F$ が構成できるとしたら, このとき ($i < 0$ で $R ^ i F=0$ と置くことで) $RF = (R ^ i F)$ はコホモロジー関手 ($F$ の右導来コホモロジー関手という) であり, 正の次数の $\partial$ 関手の標準的な射 $SF \to RG$ がある (ここで $SF = (S ^ i F)$ は定理 2.2.2 によって存在する $F$ の衛星関手であって次数が正となる普遍 $\partial$ 関手である); 最後のは $F$ が左完全であるときかつそのときに限り同型射である. $R ^ i F$ を考えることは $F$ が左完全な場合においてのみ, つまりそれらが衛星関手と一致するときにのみ興味深いように思えることを注意する; しかしながら, 入射分解によって同時になされる $R ^ i F$ の定義は $S ^ i F$ の帰納的な定義より扱いやすく, 特に最も重要なスペクトル系列 (2.4 参照) を構成するのに最も適している.

$\mathbf{C} _ 1, \mathbf{C} _ 2, \mathbf{C} ^ {\prime}$ を三つの Abel 圏とし, $T(A, B)$ を $\mathbf{C} _ 1 \times \mathbf{C} _ 2$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への加法的双関手であって, 考えをはっきりさせるために, $A$ において共変で $B$ において反変であると仮定する. $\mathbf{C} _ 2$ のすべての対象が入射的対象の部分対象と同型だと仮定すると, このとき二つ目の変数 $B$ に関して $T$ の右偏導来関手が構成できる.

$$R _ 2 ^ i T(A, B) = H ^ i (T(A, C(B)))$$

ここで $C(B)$ は入射的対象による $B$ の右分解により定義される複体である. もちろん, $R _ 2 ^ i T$ は双関手である. いま $\mathbf{C} _ 2$ におけるすべての入射的対象 $B$ に対し, $\mathbf{C} _ 1$ 上の関手 $A \to T(A, B)$ が完全だと仮定すると, すべての $B \in \mathbf{C} _ 2$ に対して系列 $(R _ 2 ^ i T(A, B))$ が $A$ でのコホモロジー関手として考えられうることを示そう. 実際に $C(B)$ を入射的対象による $B$ の右分解により定義される複体とする. $\mathbf{C} _ 1$ におけるすべての完全系列 $0\to A ^ {\prime} \to A \to A ^ {\prime\prime} \to 0$ に対し, 複体の準同型射の系列 $0\to T(A ^ {\prime\prime}, C(B))\to T(A, C(B))\to T(A ^ {\prime}, C(B))\to 0$ が完全であり ($T$ での仮定によれば $C(B)$ の項は入射的である), したがって次のコホモロジー完全系列が定義される:

$$\cdot\cdots\to R _ 2 ^ i T(A ^ {\prime\prime}, B)\to R _ 2 ^ i T(A, B)\to R _ 2 ^ i T(A ^ {\prime}, B)\overset{\partial}{\to} R _ 2 ^ {i+1} T(A ^ {\prime\prime}, B)\to\cdots\cdot$$

この系列における射 $\partial$ は複体 $C(B)$ の具体的な選び方に依存せず, 完全系列の準同型射と可換であることを即座に確認することができ, これは固定された $B$ に対し $(R _ 2 ^ i T(A, B))$ が $A$ でのコホモロジー関手であることをよく示すものである. さらに $\mathbf{C} _ 2$ における射 $B \to B ^ {\prime}$ に対応する射 $R _ 2 ^ i T (A, B) \to R _ 2 ^ i T (A, B ^ {\prime})$ が $A$ での $\partial$ 関手の射を定めることもまた即座に確認できる. もし $\mathbf{C} _ 1$ において, すべての対象が射影的対象の商と同型であり, すべての射影的対象 $A \in \mathbf{C} _ 1$ に対して関手 $T(A, B)$ で $B$ で完全である (このとき, [6] の用語法に従って, $T$ が “右平衡” であるという) と仮定すると, このとき $R _ 2 ^ i T(A, B)$ はまた $T$ の右導来関手 $R ^ i T(A, B)$ であり, そしてまた偏導来関手 $R _ 1 ^ i T (A, B)$ と一致する; この場合において, 上のように構成された境界準同型射は $R ^ i T$ と $R _ 1 ^ i T$ の第一変数に関する自然な準同型射に他ならない.

前述の考察は特に, Abel 圏 $\mathbf{C}$ のすべての対象が入射的対象の部分対象とは同型だが, すべての対象が射影的対象の商対象と同型だとは仮定しない場合について発展してきた. このとき $\mathbf{C} _ 1 = \mathbf{C} _ 2 = \mathbf{C}$ と Abel 群の圏 $\mathbf{C} ^ {\prime}$ と $T(A, B) = \operatorname{Hom}(A, B)$ を取る; 入射的対象の定義そのものによって, $\operatorname{Hom}(A, B)$ は $B$ が入射的であれば $A$ で完全である. $\operatorname{Ext} ^ p (A, B)$ によって $B$ に関する右導来関手を表すと, $\operatorname{Ext} ^ p (A, B)$ は $B$ および $A$ でコホモロジー関手を成すことがわかる. $\operatorname{Hom}(A, B)$ が左完全なのだから $\operatorname{Ext} ^ 0 (A, B) = \operatorname{Hom} (A, B)$ が得られる; $\operatorname{Ext} ^ 1 (A, B)$ が (部分対象) $B$ による (商) $A$ の拡張のクラスの成す群としても解釈できることは容易にわかる. [6, Chap. XIV]

Abel 圏 $\mathbf{C}$ が入射的対象は十分に含むが射影的対象は十分でない場合で重要なのは, $\mathbf{C}$ が位相空間 $X$ 上に与えられた環の層上の加群の層の成す圏となる場合である. 第 4 章では, この場合の群 $\operatorname{Ext} ^ p (A, B)$ をより詳細に研究する.

2.4. スペクトル系列とスペクトル関手

スペクトル系列の理論については [6, Chap. XV et XVII] を参照するが, 単に術語を明確にし, スペクトル系列が書ける最も有用な一般の場合を強調するだけである.

$\mathbf{C}$ を Abel 圏とする. $A \in \mathbf{C}$ とすると, $A$ 上の (減少) フィルトレーションとは $n\geqq n ^ {\prime}$ ($n\in\mathbf{Z}$) で $F ^ n (A) \subset {F ^ n} ^ {\prime} (A)$ を伴う $A$ の部分対象の族 $(F ^ n (A))$ のことであり, $\mathbf{C}$ におけるフィルター付き対象とはフィルトレーションを備えた $\mathbf{C}$ の対象のことである. $A, B$ が $\mathbf{C}$ の二つのフィルター付き対象であれば, 射 $u\colon A \to B$ がすべての $n$ に対して $u(F ^ n(A))\subset F ^ n (B)$ となることをそのフィルトレーションと両立するという. この射の概念によって, $\mathbf{C}$ におけるフィルトレーションを伴う対象は加法圏 (しかし Abel 圏ではない, というのもこの圏の全単射は必ずしも同型射ではないから !) を成す. $G ^ n(A) = F ^ n(A) / F ^ {n+1} (A)$ の族 $G(A)$ をフィルター付き対象 $A$ に同伴な次数付きであるという*4. $G(A)$ はフィルター付き対象 $A$ に関する共変関手である. $\mathbf{C}$ におけるスペクトル系列とは次から成る系 $E = (E _ r ^ {p, q}, E ^ n)$ のことである: a) $r \geqq 2$ の整数 $p, q, r$ に対して定義される対象 $E _ r ^ {p, q} \in \mathbf{C}$ ($2$ を任意の整数 $r _ 0$ に置き換えることはできるが, 応用する上で興味を惹くのは $r = 2$ か $r = 1$ においてのみに思える); b) $d _ r ^ {p+r, q-r+1} d _ r ^ {p, q} = 0$ となるような射 $d _ r ^ {p, q} \colon E _ r ^ {p, q} \to E _ r ^ {p+r, q-r+1}$; c) 同型射 $\alpha _ r ^ {p, q} \colon \operatorname{Ker} (d _ r ^ {p, q}) / \operatorname{Im} (d _ r ^ {p-r, q+r-1}) \to E _ {r+1} ^ {p, q}$; d) すべての整数 $n$ で定義された $\mathbf{C}$ におけるフィルター付き対象 $E ^ n$; 固定されたすべての対 $(p, q)$ に対し, 十分大きな $r$ に対して $d _ r ^ {p, q} = 0$ かつ $d _ r ^ {p-r, q+r-1}=0$ となることを仮定し, これより十分大きな $r$ に対して $E _ r ^ {p, q}$ が $r$ に依存しないことが導かれ, この対象を $E _ {\infty} ^ {p, q}$ で表す. さらに固定されたすべての $n$ に対し, $F ^ p(E ^ n)$ が十分小さな $p$ に対しては $E ^ n$ に等しく十分大きな $p$ に対しては $0$ に等しいことを仮定する; 最後に e) 同型射 $\beta ^ {p, q} \colon E _ {\infty} ^ {pq} \to G ^ p (E ^ {p+q})$ が与えられると仮定する. (フィルトレーションのない) 族 $(E ^ n)$ はスペクトル系列 $E$ の極限という. スペクトル系列 $E = (E _ r ^ {p, q}, E ^ n)$ から別のスペクトル系列 $E ^ {\prime} = ({E _ r ^ {\prime}}^ {p, q}, {E ^ {\prime}}^ n)$ への射 $u$ とはフィルトレーションと両立する射 $u _ r ^ {p, q} \colon E _ r ^ {p, q} \to {E _ r ^ {\prime}} ^ {p, q}$ と $u ^ n \colon E ^ n \to {E ^ {\prime}} ^ n$ であって射 $d _ r ^ {p, q}, \alpha _ r ^ {p, q}, \beta ^ {p, q}$ と可換になるように拘束されるもののことである. $\mathbf{C}$ におけるスペクトル系列はこのとき加法圏 (しかしもちろん Abel 圏ではない)を成す. スペクトル関手とはスペクトル系列の成す圏に値を取る Abel 圏上の加法的関手のことである*5. スペクトル系列がコホモロジースペクトル系列であるとは $E _ r ^ {p, q}$ が $p < 0$ と $q < 0$ に対して零であることをいい, このとき $r > \operatorname{Sup}(p, q+1)$ であればすぐに $E _ r ^ {p, q} = E _ {\infty} ^ {p, q}$ となり, $n < 0$ に対して $E ^ n =0$ であって, $m > n$ なら $F ^ m (E ^ n) = 0$, $m \leqq 0$ なら $F ^ m (E ^ n) = E ^ n$ となる.

たとえば $K$ を $\mathbf{C}$ における二重複体*6 $K = (K ^ {p, q})$ とし, すべての整数 $n$ に対し, $p+q=n$ かつ $K ^ {p, q} \neq 0$ となるような対 $(p, q)$ が有限個しか存在しないと仮定する. このとき両方とも $H(K) = (H ^ n(K))$ ($K$ に同伴な単体複体 $(K ^n)$ のコホモロジー, ただし $K ^ n = \sum _ {p+q=n} K ^ {p, q}$) を極限に持つ二つのスペクトル系列であって, その初項がそれぞれ ([6, Chap. XV, No. 6] の記法を用いて)

$$\text{(2.4.1)}\quad I _ 2 ^ {p, q} (K) = H _ I ^ p H _ {II} ^ q (K)\quad II _ 2 ^ {p, q} (K) = H _ {II} ^ p H _ I ^ q (K)$$

となるようなものを見出すことができる. これらのスペクトル系列は $K$ でのスペクトル関手である. さらに $K$ の次数が正であればコホモロジースペクトル系列でもある.

$\mathbf{F}$ を Abel 圏 $\mathbf{C}$ から別の圏 $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への共変関手とし, $\mathbf{C}$ においてすべての対象が入射的対象の部分対象に同型であると仮定する. $K = (K ^ n)$ を $\mathbf{C}$ における左に有界な (すなわち十分小さな $n$ に対して $K ^ n = 0$ となる) 複体とする. このとき [6, Chap. XVII] の考察は, 二つのスペクトル系列 $(IF _ r ^ {p, q}(K), IF ^ n(K))$ と $(IIF _ r ^ {p, q} (K), IIF ^ n(K))$ であって, (後者の適切な二つのフィルトレーションに対する) 次数付き対象 $\mathfrak{R}F(K) = (\mathfrak{R} ^ n F(K))$ をともに極限に持ち, その初項がそれぞれ

$$\text{(2.4.2)}\quad IF _ 2 ^ {p, q} (K) = H(R ^ q F(K))\quad IIF _ 2 ^ {p, q} (K) = R ^ p F(H ^ q(K))$$

(いつものように, 複体 $K$ に適用された関手がその関手を $K$ の各項に適用して得られた複体を表す) となるようなものに当てはまり, これらを構成することが許される. これらのスペクトル系列は $K$ について関手的であり, その初項と末項の変種はそれらが明示された形から明白である. このようにして $\mathbf{C}$ における左に有界な複体の成す圏の上に二つのスペクトル系列が定義でき, $F$ の右偏導来関手あるいはまた $F$ の (右) 超ホモロジースペクトル系列という. 関手 $\mathfrak{R} ^ n F(K)$ は $F$ の超ホモロジー関手という.

考えをはっきりさせるために $K$ の次数が正の場合に制限するという構成の原則を思い出そう. $L = (L ^ {p, q})$ を正の次数の二重複体であって添加 $K \to L$ (ここで $K$ は二つ目の次数が零となる二重複体として考える) を伴うものとする; すべての $p$ に対し, 複体 $L ^ {p, \ast}$ が $K ^ p$ の分解であり, すべての $p, q$ に対し, $n > 0$ で $R ^ n F(L ^ {p, q})=0$ であると仮定する. このような二重複体を構成する特定の方法として, どちらも二重複体のホモトピー同値を除いて一意な二つの方法をここで紹介する: a) $K$ を $\mathbf{C}$ における正の次数の複体の成す Abel 圏 $\mathfrak{K}$ の対象として考え, $L$ に対して対象 $K$ の入射分解を取る. $\mathfrak{K}$ における入射的対象が正の次数の複体 $A = (A ^ i)$ であって $A ^ i$ がそれぞれ入射的であり $i > 0$ で $H ^ i (A) = 0$ であり “バラバラになる” (すなわち輪体の部分対象 $Z(A ^ i)$ が $A ^ i$ の直和因子になる) ようなものであることが容易に確認される. さらに, $\mathfrak{K}$ のすべての対象が入射的対象に埋め込まれる. b) [6, Chap. XVII] の意味での $K$ の “入射分解” ([6] の用語法は明らかに曖昧なので引用符が必要) を取る. すなわち $L ^ {p, q}$ が入射的だと仮定し, 固定された $p$ に対し, 一つ目の微分作用素に関する $L ^ {p, \ast}$ の輪体 (resp. 境界, resp. コホモロジー) を取れば, $K ^ p$ における輪体 (resp. 境界, resp. コホモロジー) から成る対象の入射分解が見出される. こう言った上で, $L$ が上記のようであれば, このとき $H ^ \ast F(L)$ は $L$ の選び方に本質的には依存せず, さらに $R ^ \ast (F \circ H ^ 0)(K)$ と同一視される (ここで $H ^ 0$ は左完全な共変関手 $\mathfrak{K}\to\mathbf{C}$ で, $F\circ H ^ 0$ は合成関手 $\mathfrak{K}\to\mathbf{C} ^ \prime$ として考えられる). このことを分かるためには, a) の意味での) $K$ の入射分解 $L ^ \prime$ を取れば十分である: したがって分解 $L$ から分解 $L ^ \prime$ への準同型射が (ホモトピーを除いて一意に) 存在し, これより準同型射 $F(L) \to F(L ^ \prime)$ が得られ, 同型射 $I _ 2 ^ {p, q}(F(L)) \to I _ 2 ^ {p, q}(F(L ^ \prime))$ (両辺は実際には $H ^ p (R ^ 1 F(K))$ と同一視される) も, ゆえに $HF(L)$ から $HF(L ^ \prime)$ への同型射も誘導される. ところで最後のは二重複体 $F(L ^ \prime)$ の二つ目のスペクトル系列によって明確になる: 直ちに分かるように $q > 0$ で $H _ 1 ^ q (F(L ^ \prime))=0$ となり, したがって $H ^ n F(L ^ \prime) = H ^ n (H ^ 0({L ^ \prime} ^ {\ast, n}))$ が見出されるが, 右辺は定義により $R ^ n(F\circ H ^ 0)(A)$ である. これより複体 $K$ に関する関手 $F$ の, および $I _ 2 ^ {p, q} F(K) = H ^ p(R ^ qF(K))$ を初項と極限に持つ一つ目のスペクトル系列の超ホモロジー $\mathfrak{R}F(K)=\mathfrak{R} ^ \ast (FH ^ 0)(K)$ の定義と一般的な計算法が得られる. いま b) にあるように $L$ に対して $K$ の “入射分解” を取ると, このとき二重複体 $F(L)$ の二つ目のスペクトル系列は ($L$ がホモトピー同値を除いて一意だから) 本質的に $L$ に依存せず, $\mathfrak{R}F(K)$ を極限に, (2.4.2) で与えられたものを初項に持つ; さらに複体 $F(L)$ の二つ目のスペクトル系列が (2.4.2) で考察されたものになるためには, 条件の主張 b) において (入射的な $L ^ {p, q}$ の代わりに) $n > 0$ で $R ^ n F(L ^ {p, q}) = 0$ とすれば十分であろう. さらに注意すべきは, $K$ の次数が正であれば, $F$ に由来する二つのスペクトル系列はコホモロジースペクトル系列だということである. もはや $K$ が下に有界な次数を持つと仮定せず, $F$ が有限の入射次元を持つ, すなわち適切な $p$ に対して $R ^ p F=0$ であることを条件にすれば, $K$ 上の $F$ に由来するスペクトル系列が再び定義できる. この事実は [6] には載っていないようだが, 今後使うことはないので, ここでは証明せず言及するにとどめる. もちろん, $\mathbf{C}$ が十分な射影対象を持っていれば, $F$ の左導来スペクトル関手を定義することもできるし, 反変関手の場合も想像できる. [6] には $F$ が多重関手である場合が見出されるが, ここではそのようなケースを用いることはないだろう.

$\mathbf{C}, \mathbf{C} ^ {\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ を三つの Abel 圏とし, 二つの共変関手 $F \colon \mathbf{C} \to \mathbf{C} ^ {\prime}$ と $G \colon \mathbf{C} ^ {\prime} \to \mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ を考える. $\mathbf{C}$ および $\mathbf{C} ^ {\prime}$ のすべての対象が入射対象の部分対象に同型だと仮定すると, $F, G, GF$ の右導来関手が考えられるようになるので, これらのあいだに関係性を確立することを提案する. $A \in \mathbf{C}$ とし, $C(A)$ を入射対象により $A$ の右分解に同伴する複体とし, $\mathbf{C} ^ {\prime}$ における複体 $F(C(A))$ を考えると, これは $C(A)$ を変化させるときにホモトピーを除いて一意に定まる. $G$ とこの複体 $F(C(A))$ により定義されるスペクトル系列が $A$ のみに依存すること直ちに従う. したがってこれらは同じ極限を持つ $C$ 上のコホモロジースペクトル系列であって,合成関手 $G\circ F$ のスペクトル関手という. 上記の公式からこれらの初項が直ちに与えられる:

$$I _ 2 ^ {p, q}(A)=(R ^ p( (R ^ q G)F))(A) \quad {II} _ 2 ^ {p, q}(A)=R ^ p G(R ^ q F(A) )$$

非自明なスペクトル系列を得るために何よりも一番重要な場合は, $F$ が入射対象を $q \geqq 1$ で $R ^ q G$ により零化される対象 (このような対象を $G$ 非輪体という) に変換し, $R ^ 0 G = G$ (すなわち $G$ は左完全) となる場合である. このとき $I ^ {p, q}$ は $q > 0$ ならば $0$ であり, $q = 0$ ならば $R ^ p (GF)$ になり, この結果には二つのスペクトル系列が持つ共通の極限は $GF$ の右導来関手に同一視されることがある. ゆえに次を得る:

定理 2.4.1. $\mathbf{C}, \mathbf{C} ^ {\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ を Abel 圏とし, $\mathbf{C}$ および $\mathbf{C} ^ {\prime}$ のすべての対象が入射対象の部分対象に同型だと仮定する. 共変関手 $F \colon \mathbf{C} \to \mathbf{C} ^ {\prime}$ と $G \colon C ^ {\prime} \to \mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ を考え, $G$ が左完全で $F$ が入射対象を $G$ 非輪状な (すなわち $q > 0$ で $R ^ q G$ により零化される) 対象に変換すると仮定する. このとき $\mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ に値を取る $\mathbf{C}$ 上のコホモロジースペクトル系列であって, $GF$ の右導来関手 $\mathfrak{R}(GF)$ を極限に持ち, (適切にフィルター付けされ), その初項が

$$\text{(2.4.3)}\quad E _ 2 ^ {p, q}(A) = R ^ p G(R ^ q F(A))$$

となるようなものが存在する.

注意 1. 対 $(F, G)$ に関する二つ目の仮定が意味するのは, 関手 $(R ^ q G)F$ ($q>0$) が消去的 (cf 2.2) であり, あるいはまた, すべての $A \in\mathbf{C}$ に対して $q\geqq 1$ で $(R ^ q G)(F(M)) = 0$ となるような $A$ から $M$ へのモノ射を発見できるということである. ほとんどの場合, この仮説はこのようにして検証されることになるだろう.

注意 2. 合成関手の二つ目のスペクトル系列 (すなわち定理 2.4.1 で問題になっているもの) を計算するには, いくつかの $F$ 非輪状な (そして必ずしも入射的とは限らない) $C _ i$ による $A$ の分解 $C(A)$ を取り, 複体 $FC(A)$ に関する関手 $G$ の二つ目の超ホモロジースペクトル系列を取れば十分であるということが直ちに確認できる.

注意 3. 複体 $K$ に関する関手 $F$ の二つのホモロジースペクトル系列のうち, どちらか一方が退化している重要で特殊な場合を二つ述べる. $K$ が対象 $A \in \mathbf{C}$ の分解であれば, このとき $\mathfrak{R} ^ n F(K) = R ^ n F(A)$ であり, したがって次数付き対象 $(R ^ n F(A))$ は初項が $I ^ {p, q} (K) = H ^ p (R ^ q F(K))$ となるスペクトル系列の極限である. $K ^ n$ が $F$ 非輪状であれば (すなわち $m > 0$ で $R ^ m F(K ^ n)$ となれば), このとき $\mathfrak{R} ^ n F(K) = H ^ n (F(K))$ であり, したがって次数付き対象 $(H ^ n F(K))$ は初項が $II ^ {p, q} (K) = R ^ p F(H ^ q(K))$ となるスペクトル系列の極限である. この二つの結果を合わせると, $K$ が $F$ 非輪状な対象による $A$ の分解であれば, $R ^ n F(A) = H ^ n (F(K))$ となることがわかる. このように得られた同型射はさらにまた $K$ から $A$ の入射分解への準同型射により誘導される射でもあり, したがって $K$ における “反復連結準同型射” により定義される準同型射と符号を除いて一致する [6, V, 7].

2.5. 分解関手

$\mathbf{C}$ と $\mathbf{C} ^ {\prime}$ を二つの Abel 圏とし, $\mathbf{C}$ のすべての対象が入射対象の部分対象に同型だと仮定する. $F$ を左完全な $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への共変関手とする. $F$ の分解関手とは $\mathbf{C}$ 上に定義される共変関手 $\mathbf{F}$ であって, $\mathbf{C} ^ {\prime}$ において正の次数の複体の成す圏に値を取り, $\mathbf{F}(A)=(\mathbf{F} ^ n(A))$ であり, 添加 $F \to \mathbf{F}$ (すなわち関手 $F$ から $\mathbf{F} ^ 0$ のコサイクルという関手 $Z ^ 0 \mathbf{F} ^ 0$ への準同型射) を伴い, 次の条件を満たすもののことである: (i) 関手 $\mathbf{F}$ が完全である; (ii) $F \to Z ^ 0 \mathbf{F} ^ 0$ が同型射である; (iii) $A$ が入射的であれば, このとき $\mathbf{F}(A)$ は次数 $>0$ で非輪状である.

$\mathbf{F}$ を $F$ に対する分解関手とする. $\mathbf{C} ^ {\prime}$ に値を取る $\mathbf{C}$ 上の関手 $H ^ n \mathbf{F}(A)$ を考えると, 条件 (i) によりコホモロジー関手を成し, (ii) により次元 $0$ では $F$ になり, 最後に (iii) により $n > 0$ で $H ^ n \mathbf{F}(A)$ は消去的である. したがって:

命題 2.5.1. $\mathbf{F}$ が $F$ に対する分解関手であれば, このときすべての $A \in \mathbf{C}$ に対して同型射 $H ^ n \mathbf{F}(A) = R ^ n F(A)$ があり, これはコホモロジー関手の同型射を定め, 次元 $0$ では添加同型射になる.

前述の命題に別の証明を与え, これらの同型射が便利に計算できるようにしよう.

命題 2.5.2. $\mathbf{F}$ を $F$ に対する分解関手とする. $A \in \mathbf{C}$ とし, $C = (C ^ p(A))$ を $F$ 非輪体による $A$ の左分解とする. 二重複体 $\mathbf{F}C(A)=(\mathbf{F} ^ q C ^ p(A)) _ {p, q}$ と, それぞれ添加 $F\to\mathbf{F}$ と添加 $A \to C(A)$ から定まる自然な準同型射

$$\text{(2.5.1)}\quad F(C(A))\to\mathbf{F}(C(A))\leftarrow\mathbf{F}(A)$$

を考える. このとき対応する準同型射

$$\text{(2.5.2)}\quad H ^ n F(C(A)) = R ^ n F(A) \to H ^ n \mathbf{F}(C(A)) \leftarrow H ^ n\mathbf{F}(A)$$

が同型射であり, 対応する同型射 $H ^ n\mathbf{F}(A) = R ^ n F(A)$ が命題 2.5.1 のものになる.

$F(C(A))$ (resp. $\mathbf{F}(A)$) を二つ目 (resp. 一つ目) の次数が零となる二重複体として考える. $\mathbf{F}(C(A))$ の一つ目のスペクトル系列は $H(F(C(A)))$ を初項に持つ (というのも命題 2.5.1 と $C ^ p (A)$ が $F$ 非輪状であるという事実によって $H _ {II} ^ q (\mathbf{F}(C(A)))$ が $q > 0$ で零であり $q = 0$ で $F(C(A))$ と同一視されるからである). したがって (2.5.1) の一つ目の準同型射はスペクトル系列 $I$ の初項に対する同型射を誘導し, ゆえにコホモロジーに対する同型射を誘導する. 同様に, $H _ I (\mathbf{F}(C(A))) ^ {p, q}$ は $p > 0$ で零であり $p = 0$ で $F(A)$ に等しくなり (というのも $\mathbf{F}$ は完全関手で $C(A)$ は $A$ の分解だから), したがって (2.5.1) の二つ目の準同型射はスペクトル系列 $II$ の初項に対する同型射を誘導し, ゆえにコホモロジーの同型射も誘導する. 得られた $H ^ n \mathbf{F}(A)$ から $R ^ n F(A)$ 上への同型射がまさに命題 2.5.1. のものであることを示すには, $A$ の入射分解 $C ^ {\prime} (A)$ と, $C(A)$ から $C ^ {\prime} (A)$ への射を取り, 関連する準同型射であって図式 (2.5.2) から $C ^ {\prime} (A)$ に関して類似する図式への射であるものを考察すればよく, これが示すことは得られた同型射が $C(A)$ の選び方に依存しないということである. 一方で, 今後の話を入射分解に限定すれば次のことがただちにわかる: 得られた同型射は関手的であり余境界準同型射と可換であり, さらに次元 $0$ では添加同型射 (より正確にはその逆) になり, したがってこれらの同型射はまさに命題 1 のものである.

例. a) $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への恒等関手 $I$ を考えると, $I$ の分解関手 ($\mathbf{C}$ における恒等分解ともいう) はつまり $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}$ において正の次数の複体の成す圏への完全な共変関手 $C$ であって, $A$ から $Z ^ 0 C(A)$ 上への同型射である添加 $A \to C(A)$ を伴い, $A$ が入射的であれば $C(A)$ が $A$ の分解となるようなものである. このとき $C(A)$ は $A$ が何であれ命題 2.5.1 により $A$ の分解である (関手 $I$ が完全なので $n > 0$ で $R ^ n I = 0$ となる). $C$ を $\mathbf{C}$ における恒等分解, $F$ を $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への左完全な共変関手とし, すべての $n > 0$ に対して $R ^ n F(C ^ i(A)) = 0$ と仮定する. このとき $\mathbf{F}(A)=F(C(A))$ は $F$ に対する分解関手である. 実際, この関手は完全であり, 完全系列 $0 \to A ^ {\prime} \to A \to A ^ {\prime\prime} \to 0$ から完全系列 $0 \to C ^ i(A) \to C ^ i (A) \to C ^ i (A ^ {\prime\prime}) \to 0$ が結論として得られ, これより, $R ^ 1 F(C ^ i (A ^ {\prime})) = 0$ なので, 完全系列 $0 \to F(C ^ i(A ^ {\prime})) \to F(C ^ i(A)) \to F(C ^ i(A ^ {\prime\prime}))\to 0$ が得られる. こうして (i) が確認される; (ii) についても $F$ が左完全で $C$ が完全なので同様であり, (iii) についても ($C(A)$ が $A$ の $F$ 非輪状分解なので) $H ^ n (C(A)) = R ^ n F(A)$ は $n > 0$ かつ $A$ が入射的なときに零であるから同様である. $\mathbf{C}$ における恒等分解を構成する便利な方法は $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C}$ への完全関手 $C ^ 0(A)$ と関手的なモノ射 $A \to C ^ 0(A)$ を取ることである: このとき $C ^ n (A)$ ($n\geqq 0$) と準同型射 $d ^ {n-1}\colon C ^ {n-1} \to C ^ n$ が帰納的に定義される: $C ^ 1 (A) = C ^ 0 (C ^ 0 (A) / \operatorname{Im} A)$ と $n \geqq 2$ では $C ^ n (A) = C ^ {n-1} (A) / \operatorname{Im} C ^ {n-2} (A))$ を取り, $C ^ 0(Q)$ における添加準同型射 $Q = C ^ {n-1} (A) / \operatorname{Im} C ^ {n-2} (A)$ を用いて定義される $d ^ {n-1}$ を取る. このようにして恒等分解が得られる; $C ^ i(A)$ が $F$ 非輪状であるためには $C ^ 0(A)$ がそうであれば十分である.

b) $P = (P _ n)$ を $\mathbf{C}$ の対象 $A$ の射影分解とする. $F$ を $\mathbf{C}$ から Abel 群の圏への関手 $F(B) = \operatorname{Hom}(A, B)$ とする. このとき $F$ は分解関手 $\operatorname{Hom}(P, B)$ を持つ.

いま最も重要なスペクトル系列が分解関手を用いて計算できることを示そう. $\mathbf{F}$ を $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への左完全関手 $F$ の分解関手とする. $K$ を左に有界な次数を持つ $\mathbf{C}$ における複体とし, 複体 $\mathbf{F}(K)=(\mathbf{F} ^ q(K ^ p)) _ {p, q}$ を考えると, これは関手的に $K$ に依存しており, そのスペクトル系列やそれらの極限もしたがってまたそうである. この二つのスペクトル系列の初項は関手 $F$ の完全性と命題 2.5.1 によって容易に書ける:

$$\text{(2.5.3)}\quad I _ 2 ^ {p, q}(F(K)) = H ^ p(R ^ qF(K))\quad {II} _ 2 ^ {p, q}(F(K)) = R ^ pF(H ^ q(K)).$$

これらは複体 $K$ に関する $F$ の超ホモロジースペクトル系列 (2.4.2) の初項を伴う関手的な射である.

命題 2.5.3. (2.5.3) の同型射は複体 $K$ に関する関手 $F$ の超ホモロジーのそれぞれ一つ目と二つ目のスペクトル系列を伴う複体 $\mathbf{F}(K)$ のそれぞれ一つ目と二つ目のスペクトル系列の関手的な同型射に由来する.

これらの同型射は次の証明で明らかになるだろう. $C(K) = (C ^ {p, q} (K)) _ {p, q}$ を [6, Chap. XVII] の意味での $K$ の “入射分解” とし, $K$ を二つ目の次数が零になる二重複体と考えると, 添加準同型射 $K \to C(K)$ が得られる. 次のように与えられる二重複体 $M(K) = F(C(K))$ を考える:

$$\text{(2.5.3)}\quad I _ 2 ^ {p, q}(F(K)) = H ^ p(R ^ qF(K))\quad {II} _ 2 ^ {p, q}(F(K)) = R ^ pF(H ^ q(K)).$$

$M(K)$ は $K$ によって一意には定まらない; しかしながら $M(K)$ の二つのスペクトル系列と共通の極限は一意に定まる ($C(K)$ は二重複体のホモトピー同値を除いて定まるから); これらはたしかに定まる変数 $K$ でのスペクトル系列である. $L(K) = F(C(K))$ と置く; 添加準同型射 $K \to C(K)$ と $F \to \mathbf{F}$ は二重複体の準同型射

$$M ^ {p, q} (K) = \sum _ {q ^ {\prime} + q ^ {\prime\prime} = q} \mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}} (C ^ {p, q ^ {\prime}} (K))$$

を定め, これより対応するスペクトル系列に対する ($C(K)$ の選び方に依存しない) 関手的な射が得られる:

$$\text{(2.5.4)}\quad\begin{aligned}&IL(K) \to IM(K) \leftarrow I\mathbf{F}(K)\&IIL(K) \to IIM(K) \leftarrow II\mathbf{F}(K)\end{aligned}$$

これらは極限に対して同じ準同型射を定義し,

$$HL(K) \to HM(K)\leftarrow H\mathbf{F}(K)$$

初項に対して (2.5.4) の準同型射は次を与える;

$$\text{(2.5.5)}\quad\begin{aligned}&I _ 2 ^ {p, q}L(K) \to I _ 2 ^ {p, q}M(K) \leftarrow I _ 2 ^ {p, q}\mathbf{F}(K)\&{II} _ 2 ^ {p, q}L(K) \to {II} _ 2 ^ {p, q}M(K) \leftarrow {II} _ 2 ^ {p, q}\mathbf{F}(K)\end{aligned}$$

(2.5.5) の準同型射が同型射であり, (2.5.5) の極限項 (これらは $F$ からそれぞれ $K$ と二重複体 $F(K)$ への超ホモロジースペクトル系列の初項である) の間の対応する同型射は公式 (2.5.3) に由来するものである; したがって (2.5.4) の準同型射は同型射であり, これより極限項の間の同型射が得られ, 明らかにこれらが所望の同型射であろうことが従う. したがって, 列 (2.5.5) の中間項がそれぞれ $H ^ p (R ^ q(F(K)))$ と $R ^ p F(H(K))$ の形を取ることを示すことにすべてが帰着する ( (2.5.5) における準同型射がたしかに自然な同型射であることを確認するのは純粋に機械的であり, さらに続く証明において暗に含まれている).

$H _ {II} (M ^ {p, q}) = R ^ q F(K ^ p)$ であること (これよりただちに $I _ 2 ^ {p, q}(M) = H ^ p(R ^ qF(K))$ が従う) を示そう. さて, 固定された $p$ に対し, $M ^ {p, \ast} = (M ^ {p, q}) _ q$ は二重複体 $(\mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}}(C ^ {p, q ^ {\prime}}(K)) _ {q ^ {\prime}, q ^ {\prime\prime}} = \mathbf{F}(C(K ^ p))$ に付随する単体的複体である; ここで $C(K ^ p)$ は複体 $C ^ {p \ast}(K)$ を表しており, これは $K ^ p$ の入射分解である. したがって, $H ^ q (M ^ {p\ast}) = H ^ q (\mathbf{F}(C(K ^ p)))$ であり, 右辺は命題 2.5.2 によって $R ^ q F(K ^ p)$ と同一視される.

残っているのは (2.5.5) の二列目の中間項を計算することである. まず最初に

$$H _ I (M) ^ {p, q} = \sum _ {q ^ {\prime} + q ^ {\prime\prime} = q} H ^ p(\mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}} (C ^ {\ast q ^ {\prime}} (K))).$$

$\mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}}$ が完全関手なので, 右辺の和の一般項に対して $\mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}} (H ^ p(C ^ {\ast q ^ {\prime}}(K)))=\mathbf{F} ^ {q ^ {\prime\prime}}(C ^ {q ^ {\prime}}(H ^ p(K)))$ となり, ここで $C(H ^ p(K))$ は $H ^ p(K)$ の入射分解を表す (複体 $K$ の “入射分解” の定義を思い出す!). したがって $(H _ {II}(H _ I(M))) ^ {p, q} = H ^ q(F(C(H ^ p(K))))$ がわかり, これは命題 2.5.2 によって $R ^ qF(H ^ p(K))$ と同一視される. これが示すべきことであった.

つねに $F$ は $\mathbf{C}$ から $\mathbf{C} ^ {\prime}$ への左完全関手 $F$ に対する分解関手なのだから, さらに $\mathbf{C} ^ {\prime}$ から Abel 圏 $\mathbf{C} ^ {\prime\prime}$ への共変関手 $G$ があることと, $\mathbf{C} ^ {\prime}$ においてすべての対象が入射対象の部分対象と同型であることを仮定する. すべての $A \in \mathbf{C}$ に対し, 複体 $\mathbf{F}(A)$ に関する関手 $G$ の二つ目の超ホモロジースペクトル系列が考えられる; これは $A$ でのスペクトル関手であって, その初項は命題 2.5.1 を用いてただちに計算できる:

$$\text{(2.5.6)}\quad {II} _ 2 ^ {p, q} G(F(A)) = R ^ pG(R ^ qF(A))$$

これは合成関手 $GF$ の二つ目のスペクトル系列の初項を伴う関手的な同型射である.

命題 2.5.4. (2.5.6) の同型射は複体 $F(K)$ に関する $G$ の二つ目の超ホモロジースペクトル系列から合成関手 $GF$ の二つ目のスペクトル系列への関手的な同型射に由来する.

$C(A)$ を $A$ の入射分解とし, $\mathbf{F}(C(A))$ を $\mathbf{C} ^ {\prime}$ における単体的複体だと考え, (2.5.1) の自然な準同型射を考えると, すべての $G$ の二つ目の超ホモロジースペクトル系列に対応する準同型射が得られる:

$$IIG(F(C(A))) \to IIG(\mathbf{F}(C(A))) \leftarrow IIG(\mathbf{F}(A))$$

またもやこれらが同型射だと示すこと, そのために初項に対応する準同型射が同型射だと示すことにすべてが帰着する. ところで命題 2.5.1 によって, 準同型射 $H(F(C(A))) \to H(\mathbf{F}(C(A))) \leftarrow H(\mathbf{F}(A))$ は同型射であり, これより所望の結論がただちに得られる.

$\mathbf{C}, \mathbf{C} ^ {\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime\prime}$ を Abel 圏とし, 最初の三つについてはそれぞれのすべての対象が入射対象の部分対象に同型だと仮定する. 共変関手 $F, G, F ^ {\prime}, G ^ {\prime}$ (図式参照) を考え, $F$ に対する分解関手 $\mathbf{F}$ と $F ^ {\prime}$ に対する分解関手 $\mathbf{F} ^ {\prime}$ であって可換条件 $\mathbf{F} ^ {\prime} G ^ {\prime} = G\mathbf{F}$*7を満たすものが与えられたと仮定する. さらに $F$ が入射対象を $G$ 非輪体に変換すると仮定する.

$$\begin{CD}\mathbf{C}@>G ^ {\prime}>>\mathbf{C} ^ {\prime\prime\prime}\\@VF, \mathbf{F}VV @VVF ^ {\prime}, \mathbf{F} ^ {\prime}V\\ \mathbf{C} ^ {\prime}@>>G>\mathbf{C} ^ {\prime\prime}\end{CD}$$

命題 2.5.5. 前述の条件を仮定する. すべての $A \in \mathbf{C}$ に対し, 複体 $\mathbf{F}(A)$ に関する $G$ の二つの超ホモロジースペクトル系列を考える; これらは $A$ でのスペクトル関手である. これらはそれぞれ合成関手 $F ^ {\prime} G ^ {\prime}$ と $GF$ の二つ目のスペクトル関手に同型である.

合成関手 $GF$ に関する主張は命題 2.5.4 に他ならない. 合成関手 $F ^ {\prime} G ^ {\prime}$ の二つ目のスペクトル系列については, 定義より複体 $G ^ {\prime} (C(A))$ (ここで $C(A)$ は $A$ の入射分解を表す) に関する $F ^ {\prime}$ の二つ目のスペクトル系列であり, したがって命題 2.5.3 によって (最初の次数が $C(A)$ に由来するものであるような) 二重複体 $\mathbf{F} ^ {\prime} G ^ {\prime}(C(A))$ の二つ目のスペクトル系列と同一視される; ところで $\mathbf{F} ^ {\prime} G ^ {\prime} = G\mathbf{F}$ であり, したがってスペクトル系列 $II(G\mathbf{F}(C(A)))$ を計算することが必要である. さて, すべての固定された $q$ に対し, $\mathbf{F} ^ q C(A)$ は ($\mathbf{F} ^ q$ は完全なので) $G$ 非輪体による $\mathbf{F} ^ q(A)$ の分解であり, したがって $\mathbf{F}(C(A))$ はその二つの次数を交換することで $G$ 非輪体による $F(A)$ の分解になる. 2.4 によって, $G \mathbf{F} (C(A))$ の二つ目のスペクトル系列は複体 $F(A)$ に関する $G$ の一つ目の超ホモロジースペクトル系列と同一視できる.

系. $\mathbf{C}, \mathbf{C} ^ {\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime}, \mathbf{C} ^ {\prime\prime\prime}$ と $F, G, F ^ {\prime}, G ^ {\prime}$ が上記のよう (図式参照) であれば, $F, G, F ^ {\prime}, G ^ {\prime}$ に対する分解関手 $\mathbf{F}, \mathbf{G}, \mathbf{F} ^ {\prime}, \mathbf{G} ^ {\prime}$ が与えられたと仮定し, $\mathbf{F} ^ {\prime i} \mathbf{G} ^ {\prime j} = \mathbf{G} ^ j \mathbf{F} ^ i$ (分解関手における境界作用素と両立する関手的な同型射) と仮定し, また $\mathbf{F}$ (resp. $\mathbf{G} ^ {\prime}$) が入射対象を $G$ 非輪状な (resp. $F$ 非輪状な) 対象に変換すると仮定する. このときすべての $A\in\mathbf{C}$ に対し, $A$ に対する合成関手 $F ^ {\prime} G ^ {\prime}$ と $GF$ の二つ目のスペクトル系列は, 複体 $\mathbf{F}(A)$ に対する $G$ の一つ目と二つ目の超ホモロジースペクトル系列, あるいはまた複体 $\mathbf{G} ^ {\prime} (A)$ に対する $F ^ {\prime}$ の一つ目と二つ目の超ホモロジースペクトル系列, あるいは最後に二重複体 $\mathbf{G}(\mathbf{F}(A)) = \mathbf{F} ^ {\prime}(\mathbf{G} ^ {\prime}(A))$ の二つのスペクトル系列のそれぞれ一方と同一視される.

*1:訳注: もちろん $\tau$ 記号などを用いなければ, 一般には一意に定まらず, あくまでも同型を除いての場合にのみ定まる.

*2:校正時の追記: この条件は $\mathbf{C}$ のすべての対象が入射対象の部分対象に同型である場合にも自動的に確認される, cf. [6, Chap III]

*3:$A \to \mathbf{C}$ の右分解とは定義より, 正の次数の複体 $\mathbf{C}$ で “添加写像” $A\to C$ ($A$ は次数が $0$ になった複体として考えられる) を系列 $0\to A\to C ^ 0\to C ^ 1\to\cdots\,\cdots$ が完全となるような仕方で伴うものである. $A$ の入射分解とは $A$ の分解 $C$ であって $C ^ i$ が入射的対象となるものをいう. $A$ の左分解や, 特に $A$ の射影分解は, 双対として定義される.

*4:これらの定義は自己双対ではない. $A$ の $F ^ n (A)$ による “減少フィルトレーション” すべてに対し, “同伴な減少余フィルトレーション” $F _ n ^ {\prime} (A) = A / F _ {1-n} (A)$ を結び付けることで双対性が復元される. このとき, 圏から双対圏へと移ることで, この二つのフィルトレーションはそれぞれ減少余フィルトレーションと同伴な減少フィルトレーションになる. さらに $F _ n (A) = F ^ {1-n} (A), {F ^ {\prime}} ^ n (A) = F _ {1-n} ^ {\prime}(A)$ (前述のフィルトレーションに同伴な増加フィルトレーションと余フィルトレーション) と置くのが便利であり, 場合に応じて, このように結び付けられた四つのフィルトレーションのうちどちらか一方が考察する上で最も便利になる. $G ^ n (A) = \operatorname{Coker} (F ^ n (A) \to F ^ {n-1} (A) ), G _ n (A) = \operatorname{Ker}(F _ n ^ {\prime}(A)\to F _ {n-1} ^ {\prime}(A) )$ と置くと, $G ^ n (A) = G _ {-n} (A)$ となる. 関手 $G ^ n$ と $G _ n$ は $\mathbf{C}$ から双対圏に移ることで互いに交換される.

*5:知られているすべてのスペクトル関手に対し, その極限は実際にコホモロジー関手であるように思える. 極限における境界準同型射とスペクトル系列を構成する他の要素のあいだの関係はまだこれから検討しなければならない.

*6:[6] において導入されている用語法に反して, 二重複体 $K$ の二つの境界作用素 $d ^ {\prime}$ と $d ^ {\prime\prime}$ が可換であると仮定とし, したがって境界作用素として $x\in K ^ {p, q}$ に対して $dx = d ^ {\prime} x + (-1) ^ p d ^ {\prime\prime} x$ となる $d$ を取る.

*7:この同型射は関手的であり複体 $\mathbf{F} ^ {\prime} G ^ {\prime}(A)$ と $G\mathbf{F}(A)$ における境界準同型射を保つものと了解される.