前にこんな記事を書きましたが, 空集合を位相空間に含める流儀を取るとき, それは何次元の多様体になるのでしょうか?
微分構造は本質的でないので, ここでは位相多様体だけ議論すれば十分です. 自然数を $0$ 以上の整数とします.
定義1.
位相空間 $X$ が位相多様体であるとは, $X$ が Hausdorff 空間でもあり第二可算空間でもあり, 任意の $x\in X$ に対して, $x$ の開近傍 $U$, 自然数 $n$, $\mathbf{R}^n$ の開集合 $U'$, 同相写像 $\psi\colon U\to U'$ が存在することをいう.
ホモロジー論の初歩的ですが重要な結果として次が知られています.
事実2.
$n\neq m$ ならば $\mathbf{R}^n$ の空でない開集合と $\mathbf{R}^m$ の空でない開集合は同相でない.
ゆえに次の定義が正当化されます.
定義3.
位相多様体 $X$ の各点 $x$ に対応する自然数 $n$ は一意に定まり, この局所定数を $\dim_xX$ と表し, これが $x$ によらず一定であることを $X$ が純次元位相多様体であるという. その値が $n$ であることを特に $X$ が $n$ 次元位相多様体であるという.
注意.
この「純次元」という語は pure dimension や equidimension の訳語であり, スキーム論でよく用いられます.
too simple to be simple により, $1$ が素数でないように $\varnothing$ も連結ではありません.
連結でない位相多様体は純次元ではありません. 上の enwiki の記事にあるように, たとえば $S ^ 1$ と $S ^ 2$ の直和が当てはまります.
命題4.
任意の自然数 $n$ に対し, $\varnothing$ は $n$ 次元位相多様体である.
証明.
$\psi\colon\varnothing\to\varnothing\subset\mathbf{R}^n$.
このように定義するメリットとして次のようなものが挙げられます.
- $C^{\infty}$ 級多様体の間の射($C^{\infty}$ 写像)の正則値の逆像が部分多様体になる.
- {境界付き/境界のない} 多様体の境界が多様体になる.