読書録

小林秀雄『地獄の季節』の誤訳・篠沢秀夫『フランス文学精読ゼミ』の批判

地獄の季節 (岩波文庫)作者:ランボオ,小林 秀雄岩波書店Amazon はじめに タイトルを見て「小林秀雄訳『地獄の季節』の誤訳」ではないのかと思われるかもしれませんが、実は Rimbaud(一般的には「ランボー」ですが小林訳では「ランボオ」)の Une saison en …

読書録:朝比奈誼『フランス語和訳の技法』

フランス語 和訳の技法作者:朝比奈 誼白水社Amazon まあ当たり前の話ではあるものの、英文解釈の訓練を充分に積んでいれば、仏文解釈の本は基本的に「英仏間の違いを意識する」という作業だけになるのであって、具体的なテクニックについては「もうすでに聞…

ローゼンバーグ『科学哲学』がゲーデルの不完全性定理を理解していない件について

科学哲学―なぜ科学が哲学の問題になるのか (現代哲学への招待 Basics)作者:アレックス ローゼンバーグ春秋社Amazon 巷では「科学哲学の学部教育のスタンダードと言っても差し支えない本」と(出典は不明だが自分の備忘録にそうメモ)されているローゼンバー…

医学の要旨

ドイツ語は(今ちょうど近くに Hamburger Ausgabe を借りれそうな場所がないので)Project Gutenberg を、日本語訳は青空文庫の森鷗外訳を底本にし、訳注として高橋義孝『ファウスト集注 ゲーテ『ファウスト』第一部・第二部注解』と新潮文庫をメモしておい…

読書録:大塚淳『統計学を哲学する』

統計学を哲学する作者:大塚 淳名古屋大学出版会Amazon 非常に良い読書体験だった。ここ最近で読んだ本の中ではかなり面白い部類に入ったのはもちろん、かなり勉強になった部類にも入った。ただ、いくつかのメモをしておこう……と思ったのだが、読了後に色々と…

負のエントロピー

生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)作者:シュレーディンガー,岡 小天,鎮目 恭夫岩波書店Amazon なかなか面白かったのですが,今だったら『細胞の物理生物学』とかを読んでもよい気はします.ここでメモしておきたいのは「負のエントロピー」という…

感覚の文法

<私>のメタフィジックス作者:永井 均勁草書房Amazon 『〈私〉のメタフィジックス』は永井均のデビュー作であり、近年の主著である『世界の独在論的存在構造 哲学探究2』とはかなり雰囲気が異なっていて何だか可笑しい感じだった。ところで、最初に全然本筋…

読書録:秋葉忠利『数学書として憲法を読む』

数学書として憲法を読む: 前広島市長の憲法・天皇論作者:忠利, 秋葉法政大学出版局Amazon 経緯 Twitter で話題になっていたので早速図書館で借りてきて読んでみた。 ミルナー門下のトポロジストで元広島市長の秋葉忠利氏、こんな本も書いていたんですね。 ht…

読書録:木村大治『括弧の意味論』

括弧の意味論作者:木村大治NTT出版Amazon 図書館でふと見つけたので読んでみた。第一部は読んでいて普通に面白いが、第二部は「超越論的なんちゃってビリティ」に関する議論と、次に挙げる類型とその説明(これらはバラバラの位置に置かれているのでここ…

読書録:団藤重光『法学の基礎 第2版』

法学の基礎 第2版作者:団藤 重光有斐閣Amazon 少し前に刑法を勉強しておきたいなあと友人に言ってみると団藤重光『法学の基礎 第2版』を薦められたので、わずかばかりに出来た暇を使って読んでみることにした。その少し前に立ち読みしたときに非常に面白そう…

読書録:『生物学の哲学入門』『精神医学の科学哲学』

生物学の哲学入門作者:良太, 森元,泉吏, 田中勁草書房Amazon 精神医学の科学哲学作者:レイチェル・クーパー名古屋大学出版会Amazon 感想 どちらも図書館で借りて延滞せずに読めそうなトピックと厚さだと思ったので、ささっと読んでしまった(本業がそろそろ…

読書録:「ギフティッドの居場所をつくる―その理解と受容から」

昔は「ギフテッドなんて胡散臭い非科学的なレッテルは廃止すべきだ」という態度を大して調べもせずに取っていたのですが、これを読んで今までの立場を全て撤回する必要があることを痛感しました。 haruaki.shunjusha.co.jp 何が胡散臭く感じられたかというと…

読書録:『自分の「異常性」に気づかない人たち』

自分の「異常性」に気づかない人たち 病識と否認の心理作者:西多 昌規草思社Amazon ようやく “ガチ” の精神科の現場を垣間見ることができるような本を発見しました。対象読者は広範にわたっているものの、著者は特に「医療福祉系の学部を志望している若者」…

読書録:『自殺について 他四篇』

自殺について 他四篇 (岩波文庫)作者:ショウペンハウエル岩波書店Amazon ショーペンハウアーには全く興味がないのですが、薄い本は大好きなので図書館で早速読んでみました。ところが冒頭で旧約聖書も新約聖書も自殺を禁じるどころか否定すらしていないと述…

読書録:『自分を傷つけずにはいられない』

自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント作者:松本俊彦講談社Amazon 図書館でふと手に取った本でしたが、またまた名著を引き当ててしまいました。 刃物で自分の身体を傷つけるという方法による自傷(「切る」タイプの自傷)だけを取り上…

読書録:『居るのはつらいよ』

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)作者:東畑 開人医学書院Amazon この本が出たのは2019年2月で当時から非常に話題になっていたことをいまだに覚えています。そして数日前まで買いそびれ続けていたのですが、ついに(…

読書録:『「若者」をやめて、「大人」を始める』

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?作者:熊代亨イースト・プレスAmazon この前図書館でふと運命的に見かけた本で、精神科医の熊代亨氏が執筆されたということで借りてみたのですが、非常に良い本でした。「本質情報」って…

「かしら」

はじめてのジェンダー論 有斐閣ストゥディア作者:加藤秀一有斐閣Amazon 良い本でした。特に第1章で自分の考えていたことと一致した見解が示されていたのでホッとしました(ジェンダー論側からの裏付けが取れて安堵しています)。 ところで「かしら」が女性言…

“定義文の involve”

性別違和・性別不合へ作者:克己, 針間緑風出版Amazon 性同一性障害(という名前はもう存在しないのですが)の分野における第一人者の針間克己氏が執筆されたこの一冊は、同性愛やトランスジェンダーと DSM や ICD の関係についての歴史的・政治的な経緯など…

「思考吹入と所有者性」

経緯 昨日から、東京大学出版会から出ている「シリーズ精神医学の哲学」を息抜きに読んでいます。まだ第一巻『精神医学の科学と哲学』を読み始めたところなのですが、第二章「思考吹入と所有者性」で頭を悩ませた部分があったのでメモしておきます。 要約 こ…

読書録:『標準精神医学 第8版』

標準精神医学 第8版 (STANDARD TEXTBOOK)作者:尾崎 紀夫医学書院Amazon 実質2日ぐらいで読んでしまったので、これはラノベと言ってよいと思います。各論は概ね知っていたことを DSM-5 に沿って説明しているだけなので早く読めたというのもありますが、総論も…

読書録:『京大入試に学ぶ英語難構文の真髄』

京大入試に学ぶ 英語難構文の真髄(エッセンス)作者:小倉 弘プレイスAmazon 帰省中に暇になるときがあると困るだろうからと買いました。帰省は帰省でとても充実してはいましたが、一人で移動する時間や就寝する前の時間はやっぱり暇でしたから、ちょこちょこ…