言語学

BLT1 §2.4 での二項論とチョムスキーへの批判

今まではつまみ食いだけしていたBLT1(Basic Linguistic Theory: Volume 1 Methodology)を最近は精読していますが,BLT1 §2.4 での二項論批判(70〜71ページ)が少し読みづらかったので,覚書を残しておきます. If one tries hard enough, a multilateral …

『言語学第2版』第2〜4章は読むべきではない

言語学の標準的な教科書である『言語学第2版』には,現代的な観点からはいくつかの問題点が認められています。この記事では,初学者の困惑や誤解を防ぐために,第2〜4章の町田(2004)の問題点を重要度に応じて星の数を増やしたうえで列挙いたします.ただし…

『言語学第2版』第1章の問題点

言語学の標準的な教科書である『言語学第2版』には,現代的な観点からはいくつかの問題点が認められています。この記事では,初学者の困惑や誤解を防ぐために,第1章の松村(2004)の問題点を重要度に応じて星の数を増やしたうえで列挙いたします。 この記事…

『言語学第2版』第5章の問題点

言語学の標準的な教科書である『言語学第2版』には,現代的な観点からはいくつかの問題点が認められています。この記事では,初学者の困惑や誤解を防ぐために,第5章の松村(2004)の問題点を重要度に応じて星の数を増やしたうえで列挙いたします。 この記事…

Exploring Language Structure と格闘する学生たち

all-for-nothing.com ここでも紹介したように、東京大学大学院人文社会系研究科の言語学研究室が出しているガイダンス資料の「言語学を学ぶ参考情報 (2/2)」(p. 19)に「言語分析」の資料としても挙げられている Payne, Thomas Edward. 2006. Exploring lan…

東大言語学 院試(博士)2017-4

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2017-4 は、ある言語(言語名は今のところ特定できていません)の所有表現の構造と形態音韻的な規則を分析させる問題です。 間違いや不適切な点があれば、コメント欄やお問い合わせフォーム、Twitter …

minphonfeat: 最小の弁別素性や自然類を Python で自動決定する

Hubie Chen and Mans Hulden. 2018. The Computational Complexity of Distinctive Feature Minimization in Phonology. In Proceedings of the 2018 Conference of the North American Chapter of the Association for Computational Linguistics: Human La…

国際言語学オリンピックの解説リンク集

IOL Sample Problems は別に入れる必要がないと思ったので、このリンク集からは省いています。日本語で書かれた解説はことはじをご覧ください。 他にもIOLやAPLOの解説がありましたら、ぜひご教示ください。 英語 IOL 2003-1 Transcendental Algebra – an I.…

東大言語学 院試(博士)2018-4

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2018-4 は、ある膠着的な言語(言語名は今のところ特定できていません)において主語と目的語の接辞が付加された動詞の内部構造を分析させる問題です。 間違いや不適切な点があれば、コメント欄やお問…

東大言語学 院試(博士)2022-3:ワルング語

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2022-3 は、ワルング語の再帰や逆受動を表す形態素 -gali を分析させるものです。 間違いや不適切な点があれば、コメント欄やお問い合わせフォーム、Twitter の DM などでぜひご教示ください。 問題 …

東大言語学 院試(博士)2020-3:クルンフェ語

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2020-3 は、クルンフェ語のある名詞クラスにおける単数形と複数形を単一の基底形から導く音韻交替規則を考察させる問題であり、Odden, D. (2013). Introducing phonology (2nd ed.). Cambridge Univer…

東大言語学 院試(博士)2020-4:マドゥラ語

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2020-4 は、マドゥラ語の接尾辞 -e と -agi がどのように語順のパターンの違いを生み出すのか考察させる問題です。 間違いや不適切な点があれば、コメント欄やお問い合わせフォーム、Twitter の DM な…

東大言語学 院試(博士)2021-4:所有者繰り上げ

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2021-4 は、ある膠着的な言語(言語名は今のところ特定できていません)での所有者繰り上げ (possessor raising/ascension, external possession) を分析させる問題です。 間違いや不適切な点があれば…

東大言語学 院試(博士)2022-4:形容詞のない言語

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2022-4 は、ある言語(言語名は今のところ特定できていません)に形容詞という語類を設定することの妥当性を論じさせる問題です。名詞や動詞が普遍的に認められる語類であるのに対し、形容詞が普遍的…

東大言語学 院試(博士)2017-3:比較言語学

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2017-3 は、三つの言語群の系統関係を語彙セットの比較によって論じる比較言語学の問題です。 間違いや不適切な点があれば、コメント欄やお問い合わせフォーム、Twitter の DM などでぜひご教示くださ…

東大言語学 院試(博士)2019-3:モンゴ語のサンディ現象と自律分節音韻論

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2019-3 は、モンゴ語のサンディ現象を出題したものです。この現象は Goldsmith (1976) により提唱された自律分節音韻論の文脈でよく登場するものであり、 Odden, D. (2013). Introducing phonology (2…

東大言語学 院試(博士)2019-4:逆行態

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2019-4 は、去年の三月ごろにも Twitter 上で話題になった逆行態(反転)を出題したものです。言語名は今のところ特定できていません。 この問題は中国の Q&A サイトの知乎でも議論されています。 www…

東大言語学 院試(博士)2018-3:ニヴフ語の子音交替

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2018-3 は、ニヴフ語の子音交替における ‘natural class’ problem を出題したものです。どのように解答すべきか迷う部分もあり、出題者の意図を上手く汲み取りきれていないかもしれませんが、以下に示…

東大言語学 院試(博士)2021-3:後置形容詞と縮約関係節

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2021-3 は、後置形容詞が縮約関係節だと考えられることを論じる Cinque (2010) の一節を読解させる英語学の問題です。言語学の前提知識はほとんど必要なく、かつ英語の勉強にもなるので非常に教育的で…

なぞなぞの言語学

小学生の頃に「なぞなぞほど下らないものはないからすべてパターン化して価値を消し去りたいな」と思っていたのですが、最近調べてみると言語学的な研究があるようです。今度暇な時に調べてみたいので、ひとまずメモしておきます。 まずは『言語学大辞典』「…

言語学オリンピックへの誘い:ルール・遊び方・勉強法

本記事は、私の中高時代の部活の合宿で行った「言語学オリンピックへの誘い」という講義の原稿です。言語学オリンピックについてまったく知らない中学生に話すことを想定しているので、学術的正しさを少し犠牲にして分かりやすさを優先した箇所もあります。…

両辺の実部と虚部を「それぞれ」……:結城浩『数学文章作法 推敲編』

数学文章作法 推敲編 (ちくま学芸文庫)作者:結城浩筑摩書房Amazon 中一のときに上下巻のどちらも読んで参考になったのですが、最近また見返したくなったので読み直してみると、推敲編の pp. 63–64 に次のような記述がありました。 「それぞれ」は対応関係を…

ビジュアル音声学 練習問題 解答例

ビジュアル音声学作者:川原 繁人三省堂Amazon 川原繁人. (2018). ビジュアル音声学. 三省堂. の練習問題に非公式の解答例を付けました。ただし、本文中の内容を読者が自ら再確認することそのものが求められている問題はすべて省略したので、逆に言うと以下で…

ビジュアル音声学 図 3.2.3-2 の誤り

はじめに 2017 年度の大阪大学*1と京都大学*2の物理の入試問題において,音波に関する取り扱いが不適切であったことが判明し,それぞれに追加合格者が出たことはまだ記憶に新しいです.いずれも音波を変位波と扱うか密度波と扱うかを混同していることが原因…

Leipzig.js: ブラウザ上で言語学のグロスを実装する

ブラウザ上で言語学のグロスを実装するのは困難でしたが、Leipzig.js のおかげで非常に簡単に美しく表示できるようになりました。名前の由来はもちろん Leipzig Glossing Rules と JavaScript の拡張子 .js です。 Die Umgangssprache ist ein Teil des mens…

IOL 2014-1 ベナベナ語

はじめに Twitter で次のツイートが話題になっていました。 この記事では「地頭など要らない」と主張するために、どのような手法で言語学オリンピックの問題を解いていくのかわかりやすく書いておきます。 言オリ、地頭があれば解けるかもしれないけどプロ達…

IOL Sample Problems の誤植

IOL が無くなったとはいえ、JOL 用に勉強していた際に見つけた誤植を記しておくのは後世の方々に役立つと思うのでメモしておきます。リンクは https://ioling.org/problems/samples/ です。 Ancient Greek の (1) the donkey of the masterō は ō が余分 Ara…

JOL2017-3 モンゴル語解説

問題設定 問題文は https://iolingjapan.org/pdf/jol2017.pdf にありますが、まとめますと 「流れ」 「日」 「水」 数字の「二」 数字の「八」 動詞の終止形語尾「(〜す)る」 「僕(は)」 「僕の」 「僕を」 「僕から」 にあたるモンゴル語を次の対訳から…