東大言語学 院試(博士)2020-4:マドゥラ語

東京大学言語学研究室の大学院博士課程の専門科目問題の 2020-4 は、マドゥラ語の接尾辞 -e と -agi がどのように語順のパターンの違いを生み出すのか考察させる問題です。

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問題

次の言語データを分析し、ここに示したデータの観察のみに基づいて下の問いに答えなさい。なお -i は -e の異形態、-yagi は -agi の異形態である。イナ、イタ、ワティ、スィティはいずれも人名である。

番号 例文
1 leŋmaleŋ masoʔ thaʔ romana ina. 「泥棒たちはイナの家に入った。」
2 leŋmaleŋ masoʔ-e romana ina. 「泥棒たちはイナの家に入った。」
3 ita nambuʔ burus biʔ bato. 「イタは石で犬を殴った。」
4 ita nambuʔ-agi bato thaʔ burus. 「イタは石で犬を殴った。」
5 wati ŋerem paket ka siti. 「ワティはスィティに荷物を送った。」
6 wati ŋerem-e siti paket. 「ワティはスィティに荷物を送った。」
7 wati melle permen kaaŋguy naʔkanaʔ. 「ワティは子どもたちのために飴を買った。」
8 wati melle-yagi naʔkanaʔ permen. 「ワティは子どもたちに飴を買った。」
9 wati ɲabaʔ paket neŋ medʒa. 「ワティは机に荷物を置いた。」
10 wati ɲabaʔ-i medʒa paket. 「ワティは机に荷物を置いた。」
11 ita atʃareta ka ina bab siti.*1 「イタはイナにスィティについて語った。」
12 ita atʃareta-e ina bab siti. 「イタはイナにスィティについて語った。」
13 ita atʃaretaʔ-agi siti ka ina. 「イタはイナにスィティについて語った。」

(a) この言語の語順のパターンを、例文に言及しながら記述しなさい。

(b) 接尾辞 -e および -agi をつけることによって文にどのような違いが生じるか、例文に言及しながら記述しなさい。

(a)

この言語の語順のパターンは、次の六つに分類できる。

  • 例文 1:「主語 動詞 前置詞 名詞」
  • 例文 2:「主語 動詞-接尾辞 名詞」
  • 例文 3, 5, 7, 9:「主語 動詞 目的語 前置詞 名詞」
  • 例文 4, 6, 8, 10:「主語 動詞-接尾辞 名詞 目的語」
  • 例文 11:「主語 動詞 前置詞 名詞 前置詞 名詞」
  • 例文 12, 13:「主語 動詞-接尾辞 名詞 前置詞 名詞」

(b)

接尾辞 -e は動詞につくことで目標を、接尾辞 -agi は受益者を項として選択するようになる。このことが最も明確に示される例文として、次の三つを再掲する。

番号 例文
11 ita atʃareta ka ina bab siti. 「イタはイナにスィティについて語った。」
12 ita atʃareta-e ina bab siti. 「イタはイナにスィティについて語った。」
13 ita atʃaretaʔ-agi siti ka ina. 「イタはイナにスィティについて語った。」

これらはみな同じ訳文と対応しており、その動詞「語った」は「イナ」を目標とし「スィティ」を受益者としている。例文 11 の動詞 atʃareta に接尾辞 -e をつけることで、動詞 atʃareta-e は目標 ina を項として選択するようになり前置詞 ka が削除されて、例文 12 が生じる。例文 11 の動詞 atʃareta に接尾辞 -agi をつけることで、動詞 atʃaretaʔ-agi は受益者 siti を項として選択するようになり前置詞 bab が削除されて、例文 13 が生じる。例文 1 から 10 までも同様の違いが生じている。

*1:解答者注:原文ではピリオドが抜けている。