返り点の例外

雁点(以下、「レ点」)には例外の余地がないのですが、それ以外については熟語の処理に起因する例外が生じます。本記事では二つ紹介しましょう。

なお、例外を扱うのにさらに例外を立てるのは申し訳ありませんが、「一二点の外側で返り点が四つ以上必要な場合は甲乙点を使い、さらにその外側では上中下点を使う」という(しょーもない)規約があります。

まずは、そこまで深刻ではない場合から考えましょう。レ点とは「連続した二字の語順を転倒させるためだけの唯一の返り点」であると定めたとき、「患所以立」という文をどう読めばよいでしょうか?*1
結論から言うと、一般的には「患—二以 立」と読まれ、「字単位で返り点を付ける」という原則を一二点でだけ破ることにしています。
しかし、僕が中学生のときに「患—二以 立」と読んで「なぜダメなのだろう?」とずっと疑問に思っていました。実はこれはダメではなく、むしろそういう読み方も歴史上は存在するのですが、おそらく「例外を生じさせるのはレ点以外に押し付けて、レ点は清廉潔白な存在にしよう」という意識が働いて、現在では漢文訓読のスタンダードとしては採用しないようになっているのです。

上の例は訓読のルールの取り決めという色が強い一方、次に紹介するパターンは少し深刻です。深刻な点は次の二つです:

  • ルール上特に問題のない読み方だと非常に不自然
  • 自然な読み方をすると返り点の順番が下から「一三二」のように逆転する箇所が出る

こんな事態がいつ起こるのかというと、下から四字の動詞に返るときです。
たとえば「収蔵愛惜之」という文を「収—二惜 之」と、あたかもひとかたまりの四字熟語かのように読むのは無理があります。そんなことをしていたら四字熟語が無尽蔵に増えてしまうし、筆者はそう想定しているわけではなく、「収蔵→愛惜」という一連の流れを想定して文を書いただろうと思われるからです。
そこで破格ではありますが、「収—二蔵 愛—三惜 之」と付けて「之を収蔵愛惜す」と読むのです。
もちろん、結束が強い場合は四字熟語と読んで構いません。たとえば「予 也 有—二愛 於其父母 乎」と読むのがよいでしょう。

参考文献

古田島洋介, 湯城吉信. (2011). 『漢文訓読入門』. 明治書院.

*1:この問いは学習参考書でほぼ全く注記されていないのですが、おそらく漢文を試験科目として勉強した人なら一度は必ず直面するはずです。一言でいいからコメントを付けてくれる風潮ができると良いのですが……