1ヶ月半前にちょっと不適切なことを教えてしまったので自戒としてメモしておきます.
[A] シリンダーは液面下 $d$ のところに静止しており, シリンダーの底からピストンまでは $h$ であり, バネは自然長であった. このとき,
(a) シリンダー内の気体の圧力 $P$ および温度 $T$ を求めよ.
(b) シリンダーの質量 $M$ を求めよ.
[C] [A] の状況でバネを取りはずす. このとき次の問いに答えよ. ただし, 液体と気体の温度は変化しないものとする.
(e) シリンダーを [A] の位置から微小な距離 $x$ 上昇させると, シリンダーのピストンも [A] の位置から $y$ 上昇した. $x$ を $y$ で表せ. ただし, $x=0$ のときのシリンダー内の気体の圧力を $P$ とし, また, $S_0$ は $S$ に比べて十分大きく容器のピストンの位置の変化は無視できるものとする.
(f) このとき, シリンダーに働く合力 $F$ を上向きを正として求め, その結果を用いてシリンダーが上下方向の変位に対して不安定である理由を40字以内で述べよ。

鉛直上向きを正として座標を設定しましょう.
[A] バネが自然長であったことからシリンダーはつりあいの位置にあります. シリンダーとピストンの一体系と, ピストンの運動方程式, 気体の状態方程式はそれぞれ
$$\begin{cases} M\cdot 0=\rho Shg-Mg \\ 0\cdot 0=(P_0+\rho(d+h)g)S-PS \\ PSh=nRT \end{cases}$$
よって
$$\begin{cases} M=\rho Sh \\ P=P_0+\rho(d+h)g \\ T=\dfrac{PSh}{nR}=\dfrac{(P_0+\rho(d+h)g)Sh}{nR} \end{cases}$$
[C] つりあいの位置から $x$ だけ上昇させるには上向きの外力 $F _ {\text{ex}}$ が必要であり, 問題の条件より準静的等温過程なので加速度は $0$ と見做せます*1. このとき $\dfrac{S}{S_0}\ll 1$ のもとで容器のピストンの位置の変化は無視できるものとします. 気体の圧力が $P'$ になったとすると,
$$\begin{cases} M\cdot 0=F _ {\text{ex}} + \rho S(h+x-y)g - Mg \\ 0\cdot 0=(P_0+\rho(d+h-y)g)S-P'S \\ PSh=P'S(h+x-y) \end{cases}$$
よって $h+x-y>0$ より
$$\begin{cases} F _ {\text{ex}} = - \rho S(x-y)g \\ P-\rho yg =\dfrac{h}{h+x-y}P \end{cases}$$
外力を無くしたときの合力は $F=-F _ {\text{ex}}$ なので, これを変形すると
$$\begin{cases} x=\left(1+\dfrac{\rho hg}{P-\rho yg}\right)y \\ F = \rho Shg\dfrac{\rho yg}{P-\rho yg} \end{cases}$$
となります. ちなみに赤本もこれを解答としています.
しかしながら, せっかく容器のピストンの位置の変化を無視するのなら, $\dfrac{|x|}{h}\ll1$ であることも考慮に入れるべきではないでしょうか. ここで, シリンダーを $x$ だけ上向きに仮想変位させると気体の圧力が下がるのでシリンダーのピストンは圧力の低いつりあい点まで動こうとするので, $x>0$ ならば $y>0$ です. したがって $P'=P-\rho yg<P$ より $\dfrac{h}{h+x-y}<1$ となり $x>y>0$ が導かれ, $\dfrac{|y|}{h}\ll1$ でもあります. ゆえに $\dfrac{|x-y|}{h}\ll1$ なので,
$$P-\rho yg =\left(1+\dfrac{x-y}{h}\right)^{-1}P\approx \left(1-\dfrac{x-y}{h}\right)P$$
と $1$ 次近似すべきでしょう. したがって $x=\left(1+\dfrac{\rho hg}{P}\right)y$ となります. $F$ も変位 $x$ に関する形で表したいので,
$$F=\rho S(x-y)g=\rho S\dfrac{\rho hg}{P}yg=\dfrac{\rho ^ 2 Shg ^ 2}{P+\rho hg}x$$
とすると不安定であることがもっと明らかに言えます.
*1:「シリンダーに働く力のつり合いを考えることはできません」と述べているサイトがありましたが, それは不適切な記述です. 準静的であるということは力のつりあいを保ったまま動かすということだからです.