古典力学では, 粒子の位置を $\bm{r}(t)=(x(t),y(t),z(t))\in\R ^ 3$ という時間 $t\in\R$ の関数として表します.
- どの成分でも全く同じ議論が適用できるので, 粒子が $x$ 軸上に束縛されているとして $1$ 次元の運動を考えることにします.
- 煩雑に見えるのでパラメータ $t$ を省略して書くことにします.
次の物理量を定義します.
- 速度: $v=\dfrac{dx}{dt}=\dot{x}$
- 加速度: $a=\dfrac{dv}{dt}=\dot{v}$
一般的に, $t=t_0$ のときを基準にすることにして, $x_0=x(t_0)$, $v_0=v(t_0)$ とおくことにしましょう.
$$\int _ {t _ 0} ^ {t} vdt=\int _ {x(t _ 0)} ^ {x(t)}dx=x-x _ 0$$
より
同様にして,
これは一般的に成り立つ公式であり, 普通はこれ以上の情報を引き出せることはありません.
しかしながら, $a$ が時間によらず一定であるという等加速度運動のときには, 色々と特徴的な運動が見出されることが知られています. これは単なる toy example ではなく, 多くの物理現象が等加速度運動になることがあるので重要な意義があり, その性質も当然よく問われて然るべきだということになっているわけです.
それではまず完全解を出してみましょう. 先程の式を逆に辿ってみると,
これをあえてバラさずに上手に積分すれば,
この2つは当然サッと書けるべき結果ですが, これに加えて次の2つの関係も準公式として記憶されるべきものになっています.
大事な計算練習として, すでに求めた完全解からこの2つの式をちゃんと導出することをやってみましょう.
その上で, 次の導出も必ず身に付けておくべきです.
これは物理学における保存量の存在を示したことに他なりません. というのも, 物理量が保存するというのはそれが時間によらず一定であるということを表しているので, この証明においては物理量 $\Phi=\dfrac{1}{2}v ^ 2-ax$ が保存量であることを用いて公式を副次的にゲットしたということになります.
この議論をもっと微分形式的な考え方で書き直してみると更に簡潔に構造を見ることができます.
この考え方も必ず身につけておくべきでしょう.
ところで, この「保存量」の正体は一体何だったのでしょうか? 実は $a$ を上向きを正とした重力加速度 $-g$ に置き換えてみると非常に自明な結果が出てきていることが分かります.
$$\Phi=\dfrac{1}{2}v ^ 2+gx$$
これに質量 $m$ を掛けてあげると,
$$U=m\Phi=\dfrac{1}{2}mv ^ 2+mgx$$
$K=\dfrac{1}{2}mv ^ 2$ は運動エネルギーと呼ばれる項であり, $V=mgx$ は (重力による) 位置エネルギー (ポテンシャルエネルギー)と呼ばれる項です. つまり上で得られた結果を言葉で解釈すれば, 「重力加速度 $g$ で自由落下している質点 $m$ の運動エネルギーと (重力による) 位置エネルギーの和を単位質量あたりに換算したものは時間によらず一定である」ということになります. 特に, (重力による) 位置エネルギーを単位質量あたりに換算したもの (つまり $\Phi$ の第2項 $gx$) を重力ポテンシャルと言います.
教育目的で書いたので演習問題も付けておこうっと.
i) 船を発進させてから東岸に到達するまでの時間を求めよ.
ii) 船の到達する東岸の位置は, B 地点より何メートル下流か.
問2 船を真東よりある角度 $\theta$ だけ上流を目指して発進させ, 常にそのままの角度 $\theta$ を保って進めたところ, 船がついた東岸の位置は B 地点であった.
i) 船は真東より, 何度の角度で上流を目指して発進させたのか. その角度 $\theta$ を求めよ.
ii) 船を発進させてから B 地点に到達するまでに要した時間を求めよ.
問3 船を直線 AB にそって B 地点に到達させる場合に, 岸から見た船の速度はどのようになるか. A 地点からの距離 $a$ [m] の関数として表せ.
公式1が分からないと絶対に解けない問題なので面白いですね.
流速は条件より $v(x)=kx(W-x)$ と表せ, $x=\dfrac{W}{2}$ で最大値 $v_0=\dfrac{kW^2}{4}$ を取るので, $$v(x)=\dfrac{4v_0}{W^2}x(W-x).$$ この議論から分かるように, 条件「P 点での流速 $v$ [m/s] は $p$ と $q$ の積に比例し, 川の中央で最も早く $v_0$ [m/s] となるものとする」において「P 点での流速 $v$ [m/s] は $p$ と $q$ の積に比例し,」までは出題上の流体力学的モデルなのだから必ず書かれなければならないが, 「川の中央で最も早く $v_0$ [m/s] となる」の「最も早く」という語句は不要である. あるいはこの部分を丸ごと「その最大値は $v_0$ [m/s] となる」と書き換えてもよい.
i) $\dot{x}=V$ より $x=Vt$ である. $W=Vt_1$ なので $t_1=\boxed{\dfrac{W}{V}}$.
ii) i) より $\dot{y}=v(x)=\dfrac{4v_0}{W^2}Vt(W-Vt)$ であるから, $$y_1=\int_{0}^{t_1}\dot{y}dt=\dfrac{4v_0}{W^2}\left(-\dfrac{1}{3}V^2t_1^3+\dfrac{1}{2}WVt_1^2\right)=\boxed{\dfrac{2v_0}{3V}W}.$$
妥当性のチェックは次のようにします.
- 次元が合っている. このことを見やすくするために ii) では $\dfrac{2v_0}{3V}$ という無次元の係数と $W$ という長さの次元を分かち書きしている.
- $W=0$ でどちらも $0$ であるべき. 実際そうなっている.
- $W\to\infty$ でどちらも $\infty$ であるべき. 実際そうなっている.
- $v_0=0$ は「そもそも流れが存在しない」ことを表しているはずなので, $y_1=0$ であるべき. 実際そうなっている.
- $v_0\to\infty$ は「めちゃめちゃ流れが速い」ことを表しているはずなので, $y_1\to\infty$ であるべき. 実際そうなっている.
ちなみにこの関数形からも分かるように, 船の軌道は原点で接する $3$ 次関数のグラフになります.
$\dot{x}=V\cos\theta$ より $t_2=\dfrac{W}{V\cos\theta}$ であり, $y_2=0$ である. $\dot{y}=v(x)-V\sin\theta$ より $$y_2=\dfrac{2v_0}{3V\cos\theta}W-\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}W=0$$ よって $\sin\theta=\dfrac{2v_0}{3V}$ であり, 実際にこの経路が実現したので $\dfrac{2v_0}{3V}\leq1$ が成立しており, $\theta=\boxed{\arcsin\dfrac{2v_0}{3V}}$ である. したがって, $t_2=\boxed{\dfrac{W}{V\sqrt{1-(2v_0/3V)^2}}}$.
- 次元が合っている. $t_2$ の分母を払わないのも無次元化することで見やすくするためである.
- $W=0$ でどちらも $0$ であるべき. 実際そうなっている.
- $W\to\infty$ でどちらも $\infty$ であるべき. 実際そうなっている.
- $v_0=0$ では問1と同じ状況のはずなので $t_2=t_1$ かつ $\theta=0$ となっているべき. 実際そうなっている.
- $v_0\to\infty$ のままだと制御しきれず B 地点よりも下流に流されてしまうはずなので, 負けじと $V\to\infty$ となるべきである. 実際そうなっている.
- $W=0$ で $V$ であるべき. 実際そうなっている.
- $v_0=0$ では問1問2と同じ状況のはずなので $\theta=0$ となり $\dot{x}=V$ となるべきである. 実際そうなっている.
- $v_0\to\infty$ や $W\to\infty$ のままだと制御しきれず直線 AB に沿って運動させることが不可能になるはずなので, 負けじと $V\to\infty$ となるべきである. 実際そうなっている.