そういう議論をするなかで、圏論の概念(私はほんの少ししか知らないが)は美しく、認知科学のモデルにも利用できたら面白そうだが、安易に利用できるとは言えない、という実感を持った。一方で、圏論を用いた認知の研究を研究会等で発表すると、近年の圏論の流行も影響してか、多くの人が興味を持ってくれた。そのたびに、難しい点もあることから、なんだか誑かしているような気分になり、戸惑うことがあった。
しかし、ある日気付いたのだけれど、そもそも大抵の研究者は大人なのだ。提示側が結果を大きく見せて騙そうとしたら不正だが、正直であれば、誑かされた方の責任だろう。そうだとすれば、必ず役立つかは別にして、可能性のある様々な数理的枠組みを広く認知科学者が知り、研究の上での概念的枠組みや、数理モデリングの候補とすることは、今後の認知科学の発展に少なくとも長期的には寄与しうるのではないか。個人的にはそのような思いで、多くの人に圏論の認知科学に対する可能性を問える特集号となれば良いと考え、企画に携わせていただいた。
ああ、これほどに一言一句すべてに共感できる文章に出会ったのは数ヶ月ぶりだ……