球周角の定理は成り立たない

「円周角の定理」と呼ばれる主張には

  1. $\forall P.\ \angle{AOB}=2\angle{APB}$
  2. $\forall P\forall Q.\ \angle{APB}=\angle{AQB}$

の二通りがあって, 2 は 1 の系なので本質的には 1 が効いているわけですが, 「円周角」の well-defined 性を保証するという観点では 2 が本質的です. 実は方べきの定理や Kepler の第三法則でも同様の問題が発生しています. では (暗黙の了解として左辺には文脈における主語や主題に相当する量が来がちなので) 1 を「中心角の定理」と呼ぶべきなのでしょうか? 中心角がその円周角との関係において興味を惹くことが少ないように思えるので私は否定的ですが, 実際には慣習に屁理屈を付けているだけかもしれません. ただ, 有向角で考えると 1 はそのまま成り立つが 2 は成り立たないということを, 1 の方が本質的な法則であることの根拠にすることは可能ではあります.

……というのは少し前にした連続ツイートの供養なのですが, ここでは円周角の定理が三次元に拡張できないのか (「球周角の定理」が成り立つのか) を考えてみましょう. まずは『岩波数学入門辞典』p. 641 の「立体角」を見てみます.

$3$ 次元空間内の多面体 $X$ の頂点 $v$ を中心とした半径 $r$ が十分小さい球面 $S$ を考え, $S$ と $X$ の共通部分 $S\cap X$ の面積の $1/r ^ 2$ 倍を $X$ の $v$ における立体角と呼ぶ.

より一般に, 向き付けられた曲面 $S$ の点 $O$ に対する立体角 $\Omega$ は, $$\Omega=\int _ S \frac{\bm{r}\cdot d\bm{S}}{r ^ 3}$$ と定義されます.

それでは, 直径 $d$ の地球を考えましょう. 南極のあたりに充分小さい面積 $S$ の曲面を (北極から南極への向きを正とする法線ベクトルとともに) とり, これが球面上の (この曲面に含まれない) 点に対する立体角がどうなるかを考えればよいです.

  • 北極に対する立体角は $\Omega _ {\text{N}}=S/d ^ 2$ となります.
  • 赤道に対する立体角は $\Omega _ {\text{E}}=S\cos{45\degree}/(d\cos{45\degree}) ^ 2=\sqrt{2}\Omega _ {\text{N}}$ となります.

したがって, 球周角の定理は成り立ちません. これは 2 の方ですが, 1 の方を定量的に計算することもできます. 次の回答をご覧ください.

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