1980年 東大文系数学 第3問の自然な別解

1980年 東大文系 第3問 $n$, $a$, $b$, $c$, $d$ は $0$ または正の整数であって, $$ \left\{\begin{array}{l} a^{2}+b^{2}+c^{2}+d^{2}=n^{2}-6 \\ a+b+c+d \leqq n \\ a \geqq b \geqq c \geqq d \end{array}\right. $$ を満たすものとする. このような数の組 $(n,a,b,c,d)$ をすべて求めよ.

見当たる限りすべての模範解答が「$n$ を消去する」という手法でゴリゴリ解いているのですが, 自分は (受験数学的センスに乏しいので) 全くそんなことを考えずに次のような思考を踏んで解答を作成しました. 同じような解法をしている人はいるはずなのですが, なかなか見当たらないので記事にする価値があるかと思ってひとまず公開しておきます.


まずは問題文を整理してみましょう. 条件をよく見てみると, 3番目の $a\geqq b\geqq c\geqq d$ は単なる技術的な要請であって, 本質的に効いてくる条件ではなさそうです. どうやら, 2番目の $a+b+c+d\leqq n$ という拘束条件のもとで, 1番目の $a ^ 2 + b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 = n ^ 2-6$ を満たす $(n,a,b,c,d)$ を探すことを考えればいいようです。

まず整数問題で大事な手法の一つに不等式で範囲を絞るということがあります. よく見ると $n ^ 2-6=a ^ 2+b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2\geqq0$ より $n ^ 2\geqq6$ で, 仮定より $n\geqq3$ であることがわかります. そして $a\leqq n-(b+c+d)\leqq n$ より $n\geqq a\geqq b\geqq c\geqq d\geqq 0$ であることもわかります.

そして (これは整数問題に限らず重要な手法ですが) 実験するということも大事です. 先ほど $n\geqq a\geqq b\geqq c\geqq d\geqq 0$ を導出したので, $n$ を固定しながら $a\to b\to c\to d$ という順で決めていけばよいことがわかります. なお, $a=0$ だと $a ^ 2 + b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2=0$ となるので $a\geqq1$ で考えます.

  • $n=3$ の場合を考えてみましょう. $a+b+c+d\leqq 3$ のもとで, $a ^ 2 + b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 = 3 ^ 2-6=3$ となればOKです.
    • $a=3$ とすると $9+b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 \geqq 9 > 3$ となり不可能です.
    • $a=2$ も同じです.
    • $a=1$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=2$ となり, 同様の議論を続けて $(3,1,1,1,0)$ を得ます.
  • $n=4$ の場合を考えてみましょう. $a+b+c+d\leqq 4$ のもとで, $a ^ 2 + b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 = 4 ^ 2-6=10$ となればOKです.
    • $a=4$ とすると $16+b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 \geqq 16 >10$ となり不可能です.
    • $a=3$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=1$ となり, 同様の議論を続けて $(4,3,1,0,0)$ を得ます.
    • $a=2$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=6$ となり, 同様の議論を続けて $(4,2,2,1,1)$ を得ますが, これは2番目の条件に反します.
    • $a=1$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=9$ となりますが, $b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2\leqq a ^ 2+a ^ 2 + a ^ 2=3 < 9$ より不可能です.
  • $n=5$ の場合を考えてみましょう. $a+b+c+d\leqq 5$ のもとで, $a ^ 2 + b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 = 5 ^ 2-6=19$ となればOKです.
    • $a=5$ とすると $25+b ^ 2 + c ^ 2 + d ^ 2 \geqq 25 >19$ となり不可能です.
    • $a=4$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=3$ となり, 同様の議論を続けて $(5,4,1,1,1)$ を得ますが, これは2番目の条件に反します.
    • $a=3$ とすると $b ^ 2+c ^ 2+d ^ 2=10$ となり, 同様の議論を続けて $(5,3,3,1,0)$ を得ますが, これは2番目の条件に反します.

このあたりで多分どうせもう不可能であることがわかります. どうやら和を作ることだけは可能なことも多いようですが, そもそも2番目の条件が厳しいということが観察できます. つまり, すぐに2番目の条件に抵触してしまうということは, 「できるだけ小さな $a$, $b$, $c$, $d$ でデカい値を作ることはできないか……」と苦心惨憺しているわけです.

そこでその状況を逆手にとって, $a+b+c+d \leqq n$ のもとで, $f_n(a,b,c,d)=a^{2}+b^{2}+c^{2}+d^{2}$ がどういう値を取りうるのかという点から探ることにしてみましょう. 先ほど「なかなかデカい値が作れない……」と悩んでいたわけですが, $f_n$ をデカくするにはどうすればよいでしょうか?

ここでまた実験です.

  • $f_3$ のとりうる値は $9, 5, 4,$ $3$$,\dots$ です.
  • $f_4$ のとりうる値は $16,$ $10$$,\dots$ です.

作っていく最中に, どうやら $f_n$ を最大にするには「偏った分け方をする」のが大事なことに気が付きます. よく考えてみるとそれは, すべての正の整数 $n$ に対して $(n+1) ^ 2+(n-1) ^ 2>n ^ 2 + n ^ 2$ が成り立っているからのようです. というわけでデカい数の作り方を理解した上で, 引き続き実験を続けてみましょう.

  • $f_5$ のとりうる値は $25, 17, \dots$

あれ? $5 ^ 2-6=19$ の入る余地が見当たりません.

  • $f_6$ のとりうる値は $36, 26, \dots$
  • $f_7$ のとりうる値は $49, 37, \dots$

どうやら $n\geqq 5$ では $n ^ 2-6$ は $f_n$ の最大値 $n ^ 2$ とその次の値 $(n-1) ^ 2 + 1 ^ 2 + 0 ^ 2 + 0 ^ 2=n ^ 2 - 2n+2$ で挟まれてしまうようです. つまり $n\geqq 5$ のとき常に $$n ^ 2 > n ^ 2 - 6> n ^ 2 - 2n+2$$ が成立しているようです. よく考えてみるとそれは, 左の不等号は必ず成立しており, 右の不等号については $n ^ 2 -6 \gtreqqless n ^ 2 -2n+2\iff n \gtreqqless 4$ であることに起因しています. これでは達成しようがありません.

以上より, 求める組は $$\boxed{(n,a,b,c,d)=(3,1,1,1,0), (4,3,1,0,0)}$$ であることがわかりました.