受験数学における束 (pencil) について

(pencil) とは射影幾何学に由来する概念であり, もともとは Desargues の用いた ordonnance に端を発していますが, 代数幾何学における $1$ 次元の線形系も線形束 (linear pencil) と呼ばれています. ここではそのような射影幾何的・代数幾何的な背景には立ち入らず, 受験数学においてどのように束を利用できるかについて紹介します.

一般的な受験参考書には後述する系4のみが取り沙汰されていますが, 清 (2017) などは束について適切な具体例とともに詳述しています. 本稿ではより抽象的な導入をするとともに3つの入試問題を取り上げることで, 束が単なる「受験数学テクニック」ではなく非常に重要な数学的手法・数学的対象であることを説明します.

平面

定義1. (曲線束) $2$ 曲線 $C_1 \colon f(x,y)=0$, $C_2 \colon g(x,y)=0$ が共有点をもつとき, ($C_1$ と $C_2$ の) 曲線束とは $P(x,y)f(x,y) + Q(x,y)g(x,y) = 0$ のことである. ただし, $P(x,y)$, $Q(x,y)$ は少なくとも $C_1$, $C_2$ の共有点上で定義される関数とする.
定理2. 曲線束は $C_1$ と $C_2$ の共有点をすべて通る.
証明. 共有点 $(a,b)$ を任意にとると $f(a,b)=g(a,b)=0$ が成り立つので, 任意の $P(x,y)$, $Q(x,y)$ に対し $P(a,b)f(a,b) + Q(a,b)g(a,b) = 0$ が成り立つ.

ここで曲線束はすべての共有点を通る曲線の方程式であることは正しいことは示されましたが, 一般にすべての共有点を通る曲線の方程式がすべて曲線束として表せるわけではありません. しかし, もちろんすべてを表せる場合もあり, しかもそれは運良く使いやすい状況になっています.

交わる $2$ 直線

定理3. $P(x,y)\equiv p$, $Q(x,y)\equiv q$, ただし $(p,q) \neq (0,0)$ という形の曲線束は $C_1$ と $C_2$ の交点を通るすべての直線を表せる.
証明. 交点を通る任意の直線上の交点以外の点 $(a,b)$ を任意にとると, $$-g(a,b)f(x,y) + f(a,b)g(x,y) = 0$$ は $C_1$ と $C_2$ の交点も点 $(a,b)$ も通る直線である.
系4. $P(x,y)\equiv1$, $Q(x,y)\equiv k$ という形の曲線束は交点を通る ($C_2$ 以外の) すべての直線を表せる.
注意. これが世間一般で言われる “直線束” $f(x,y)+kg(x,y)=0$ である.

この証明は非常に汎用性が高いので以下のケースも同様に示すことができます.

$2$ 点で交わる円と直線の場合

曲線束は $2$ 交点を通る直線と円をすべて表せる. (ただし $(1,k)$ としている場合は直線は表せない)

$2$ 点で交わる $2$ 円の場合

曲線束は $2$ 交点を通る直線と円をすべて表せる. (ただし $(1,k)$ としている場合は一方の円は表せない)

問題5. (1998年 京大後期理系 第3問) $A_1$, $A_2$, $A_3$ は $xy$ 平面上の点で同一直線上にはないとする. $3$ つの $1$ 次式 $$\begin{aligned} f_1(x,y)&=a_1x+b_1y+c_1,\\ f_2(x,y)&=a_2x+b_2y+c_2,\\ f_3(x,y)&=a_3x+b_3y+c_3 \end{aligned}$$ は, 方程式 $f_1(x,y)=0$, $f_2(x,y)=0$, $f_3(x,y)=0$ によりそれぞれ直線 $A_2A_3$, $A_3A_1$, $A_1A_2$ を表すとする. このとき実数 $u$, $v$ をうまくとると方程式 $$uf_1(x,y)f_2(x,y)+vf_2(x,y)f_3(x,y)+f_3(x,y)f_1(x,y)=0$$ が $3$ 点 $A_1$, $A_2$, $A_3$ を通る円を表すようにできることを示せ.
解答. $$\begin{cases} u=\dfrac{(a_3^2+b_3^2)(a_1b_2-a_2b_1)}{(a_2^2+b_2^2)(a_3b_1-a_1b_3)}\\ v=\dfrac{(a_1^2+b_1^2)(a_2b_3-a_3b_2)}{(a_2^2+b_2^2)(a_3b_1-a_1b_3)} \end{cases}$$ とすると $xy$ の係数は $0$ であり, $x ^ 2$ と $y ^ 2$ の係数はともに $$\dfrac{(a_2b_1-a_1b_2)(a_2b_3-a_3b_2)}{a _ 2 ^2 + b _ 2 ^ 2}\neq0$$ なので円になる.

空間

平面での議論は (変数を増やすだけなので) 空間での場合にも曲面束として適用することができます.

問題6. (2019年 阪大文理共通) 座標空間内の $2$ つの球面 $$\begin{aligned} S_1&\colon(x-1)^2+(y-1)^2+(z-1)^2=7\\ S_2&\colon(x-2)^2+(y-3)^2+(z-3)^2=1 \end{aligned}$$ を考える. $S_1$ と $S_2$ の共通部分を $C$ とする. このとき以下の問いに答えよ.
(1) $S_1$ との共通部分が $C$ となるような球面のうち, 半径が最小となる球面の方程式を求めよ.
(2) $S_1$ との共通部分が $C$ となるような球面のうち, 半径が $\sqrt{3}$ となる球面の方程式を求めよ.
注意. 中心間距離が $3$ で, 半径の差 $\sqrt{7}-1$ より大きく, 半径の和 $\sqrt{7}+1$ より小さいということから $S_1$ と $S_2$ が交わるので, $C$ がたしかに存在していることがわかる.

ここでは $S_1$ との共通部分が $C$ となるような「平面」は除いて考えたいので, 系4の不都合を逆手にとって束を構成しましょう.

解答. $S_1$ との共通部分が $C$ となるような球面は $$(x-1)^2+(y-1)^2+(z-1)^2+k(2x+4y+4z-25)=0$$ と表せ, すなわち $$(x+k-1)^2+(y+2k-1)^2+(z+2k-1)^2=9k^2+15k+7$$ である.

(1) $$9k^2+15k+7=9\left(k+\dfrac{5}{6}\right)^2+\dfrac{3}{4}$$ より半径の最小値は $\dfrac{\sqrt{3}}{2}$ で, 球面の方程式は $$\boxed{\left(x-\frac{11}{6}\right)^2+\left(y-\frac{8}{3}\right)^2+\left(z-\frac{8}{3}\right)^2=\frac{3}{4}}.$$
(2) $$9k^2+15k+7=\sqrt{3}^2\Leftrightarrow k=-\frac{1}{3}, -\frac{4}{3}$$ より $$\begin{aligned} &\boxed{\left(x-\frac{4}{3}\right)^2+\left(y-\frac{5}{3}\right)^2+\left(z-\frac{5}{3}\right)^2=3},\\ &\boxed{\left(x-\frac{7}{3}\right)^2+\left(y-\frac{11}{3}\right)^2+\left(z-\frac{11}{3}\right)^2=3}. \end{aligned}$$
問題7. (2002年 東大理系 第3問) $xyz$ 空間内の原点 $O(0,0,0)$ を中心とし, 点 $A(0,0,-1)$ を通る球面を $S$ とする. $S$ の外側にある点 $P(x,y,z)$ に対し, $OP$ を直径とする球面と $S$ との交わりとして得られる円を含む平面を $L$ とする. 点 $P$ と点 $A$ から平面 $L$ へ下した垂線の足をそれぞれ $Q$, $R$ とする. このとき, $$PQ\leqq AR$$ であるような点 $P$ の動く範囲 $V$ を求め, $V$ の体積は $10$ より小さいことを示せ.
解答. 点 $P$ の座標を $(a,b,c)$ と置き直し, $OP$ を直径とする球面を $S'$ とおく. $$\begin{aligned} S&\colon x^2+y^2+z^2=1\\ S'&\colon x(x-a)+y(y-b)+z(z-c)=0\\ L&\colon ax+by+cz=1 \end{aligned}$$ $P$ が $S$ の外側にあるので $a ^ 2+b ^ 2+c ^ 2 > 1$ となるから, $$\begin{aligned} &PQ\leqq AR\\ &\Leftrightarrow\frac{|a^2+b^2+c^2-1|}{\sqrt{a^2+b^2+c^2}}\leqq\frac{|-c-1|}{\sqrt{a^2+b^2+c^2}}\\ &\Leftrightarrow a^2+b^2+c^2-1\leqq |c+1| \end{aligned}$$ $c<-1$ のときこの式は $$a^2+b^2+\left(c+\frac{1}{2}\right)^2\leqq\left(\frac{1}{2}\right)^2$$ となるが, $\left(c+\dfrac{1}{2}\right)^2>\left(\dfrac{1}{2}\right)^2$ と $a^2+b^2\geqq0$ より成立しない. その一方で $$a^2+b^2+\left(c-\frac{1}{2}\right)^2>\left(\frac{3}{2}\right)^2$$ となるから, 対偶をとって $$a^2+b^2+\left(c-\frac{1}{2}\right)^2\leqq\left(\frac{3}{2}\right)^2\Rightarrow c\geqq -1$$ 以上より, $V$ は「$S$ の外側にあり, かつ $PQ\leqq AR$ を満たす」ような点 $P$ の集合であったから, $$\begin{cases} x^2+y^2+z^2>1\\ x^2+y^2+\left(z-\dfrac{1}{2}\right)^2\leqq\left(\dfrac{3}{2}\right)^2 \end{cases}$$ を満たす領域であり, これは点 $\left(0,0,\dfrac{1}{2}\right)$ を中心とする半径 $\dfrac{3}{2}$ の球面および内部から点 $(0,0,0)$ を中心とする半径 $1$ の球面および内部を除いた図形であるから, その体積は $$\frac{4}{3}\pi\left(\left(\frac{3}{2}\right)^3-1^3\right)=\frac{19}{6}\pi<10$$ となり示された.
注意. 厳密性を期すならば, $S'$ は $S$ 内部の点 $O$ と $S$ 外部の点 $P$ を通るので $S$ と交わっていることと, 束を用いて $L$ の方程式を定めるときの説明をした上で「座標空間内の円を含む平面は一意に定まる」という事実が使われていることを注記すべきであるが, 入試問題の答案としてはこれぐらいで問題なく合格可能であり, かつ本稿において説明すべきことには少し瑣末なことであるので解答内からは外した.

参考文献

日本数学会. (2007). 『岩波数学辞典 第4版』. 岩波書店.
清史弘. (2017). 『新数学 Plus Elite Ⅱ・B』. 駿台文庫.