道管と師管の覚え方

維管束植物は全植物種の約 93 % を含み、単一のクレードを形成しますが、維管束を構成する木部と師部のどっちがどっち側にあるのか忘れがちなので思い出し方をメモしておきます。

まず非常に重要なポイントとして、「師部」はもともと「篩部」と書かれていたことに注意しましょう。「篩」は「ふるい」という意味でありその機能と形態をよく表していたのですが、これは常用漢字外なので「師」という部分だけが取り出されてしまったわけです*1。同様に「道管」も「導管」と書かれていましたが、こちらは大した差はないように思われます。

高等植物の維管束組織は、道管を含む木部組織、師管を含む師部組織、そして形成層からなる複合組織です。形成層は成長の過程で木部組織と師部組織を作り出します。さて、高等植物では確かに、形成層をはさんで内側に木部、外側に師部が配置されている並立型が最も一般的ですが、内側から師部・ 形成層・木部・形成層・師部という配置(副並立型)や木部が師部を取り囲む配置(外木包囲型)などの例外も見受けられます。

並立型が多く見られる理由は実のところよくわかっていませんが、茎の肥大成長(茎が太くなること)と関連があるのかもしれません。数多くの植物の若い茎では並立型の維管束が円筒状に配置していますが、成熟すると維管束の間にも形成層(維管束間形成層)が作れら、外側から師部・形成層・木部がリング状に連続した構造を取るようになります。そして、形成層から連続的に内側に木部、外側に師部が作られることで茎が肥大成長します。道管や木部繊維などの木部の細胞の多くは成熟すると死細胞になりますので、もし木部が外側に配置していると肥大成長には不都合だと考えられます。

葉脈で表側が道管(木部)で裏側が師管(師部)になっているのは、茎の維管束との連続性を考えると理解できます。葉脈は節(茎と葉の接続部)から下のほうに伸びて節の下側で茎の維管束とつながっています。したがって葉脈の表側が茎に入ると内側(木部側)になり、葉脈の裏側が茎の外側(師部側)になります。

出村 拓(理化学研究所)

こういう解説こそが「美しい」とつくづく感じます。