理論物理への道標 問題 1.14 II への疑問

『理論物理への道標』問題 1.14 II の解答には疑問があります。

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図 1

II 小物体 A が速さ $V$ で半径 $r$ の等速円運動をしている最初の状態で、端点 P に質量 $M$ のおもり B を吊るしたら、B は静止した。そこで、B をゆっくり $a$ ($\ll r$) だけ引き下げて放すと B は上下に振動した。B の振動の周期を重力加速度の大きさ $g$ と $r$ を用いて求めよ。ただし、おもり B の振動は、小物体 A の回転運動に比べて非常にゆっくりしているものとする。

おもり B のつり合いの位置を原点とし鉛直下向きを正とする $x$ 軸をとり、張力を $S$ とおき、おもり B の座標が $x$ であるときの小物体 A の速さを $v$ とおきます。おもり B が静止したときの A, B 一体系の運動方程式、おもり B がつり合いの位置から $x$ だけ変位したときの A と B の運動方程式、角運動量保存則は次の通りです:

$$\begin{cases} m\dfrac{V ^ 2}{r}=Mg \\ m\left(\dfrac{v ^ 2}{r-x}+\ddot{x}\right)=S \\ M\ddot{x}=Mg-S \\ mrV=m(r-x)v \end{cases}$$

初期条件は $t=0$ において $x=a\ll r$ かつ $\dot{x}=0$ です。未知数は $V$ と $v$ と $x$ と $S$ で関係式も四つあるので解けることがわかりますが、ここで知りたいのは $x$ に関する振る舞いなので、まずは張力 $S$ を消去する方向性で行きましょう。二番目と三番目の式を足して、

$$m\left(\dfrac{v ^ 2}{r-x}+\ddot{x}\right)+M\ddot{x}=Mg$$

を得ます。この関数形を見るとおもり B はやはり $r$ に比べると微小な範囲を振動することがわかるので、一番目と四番目の式を代入して次のような近似ができます:

$$\begin{aligned} (M+m)\ddot{x} &=-m\dfrac{r ^ 2}{(r-x) ^ 3}V ^ 2+Mg \\ &=-Mg\left(\left(1-\frac{x}{r}\right) ^ {-3}-1\right) \\ &\approx-\frac{3Mg}{r}x \end{aligned}$$

したがって周期は $2\pi\sqrt{\dfrac{r}{3g}\left(1+\dfrac{m}{M}\right)}$ となり、当たり前ですが小物体の質量もおもりの質量もちゃんと寄与しています。しかし問題で使ってよいと定められている変数は $g$ と $r$ だけなので、何らかの近似を行う必要があります。ここで「おもり B の振動は、小物体 A の回転運動に比べて非常にゆっくりしているものとする」という文言があるので、よくわかりませんが $\dfrac{m}{M}\to0$ と考えて $2\pi\sqrt{\dfrac{r}{3g}}$ とするしかないでしょう。本書の解答には次のように書かれています:

II おもり B が静止したときのつり合いより、$$Mg=m\dfrac{V ^ 2}{r}\cdots\cdots\text{⑤}$$

B が静止位置から下方へ $\Delta r$ ($|\Delta r|<a\ll r$) だけ変位したとき、B の運動方程式は、加速度を $\alpha=\dfrac{d ^ 2}{dt ^ 2}(\Delta r)$ として、

$$\begin{aligned}M\alpha &=Mg-m\frac{(V+\Delta V) ^ 2}{r-\Delta r}\\ &\fallingdotseq Mg-m\frac{V ^ 2}{r}\left(1+2\frac{\Delta V}{V}\right)\left(1+\frac{\Delta r}{r}\right)\\ &\fallingdotseq -Mg\left(2\frac{\Delta V}{V}+\frac{\Delta r}{r}\right)=-\frac{3Mg}{r}\Delta r\end{aligned}$$

これより、B は、角振動数 $\Omega=\sqrt{\dfrac{3g}{r}}$、周期 $T _ 0=\dfrac{2\pi}{\Omega}=2\pi\sqrt{\dfrac{r}{3g}}$ の単振動をすることがわかる。

つまり「おもり B の振動は、小物体 A の回転運動に比べて非常にゆっくりしているものとする」という文言を「A の運動方程式における加速度は $\ddot{x}$ の影響を受けないと考えてよい」と解釈しているのでしょう。なぜそうなるのかよくわかりませんが、もし正しい近似なのだとしてもその議論は少なくとも非自明であるとは思います。